[Japanese/English]

2011年7月8日金曜日

International Fission Yeast Meeting

今回は、先週開催された第6回国際分裂酵母学会(international fission yeast meeting)について書きます。

二年前のこの学会は東京で開催しました(われらが山本正幸教授と渡邊嘉典教授による主催)。そのとき、次回はボストンで開催されることが発表されたのですが、ボストンと聞いても正直あまりときめきませんでした。私にとって英国は第二の故郷ですが、米国はあまり自分と縁がなかったので。。

しかし6年ぶりに米国東海岸に行ってみると、とても落ち着いたいいところばかりで、研究するのに適しているという印象を受けました。特にワシントンD.C.とかボストンは都会なのに落ち着いた雰囲気を持っており、好感が持てました。プロビデンスもとても素敵でした。

さてそんなとても良い場所で開催された分裂酵母学会ですが、世界中の分裂酵母研究者が集まり、様々な分野の研究発表がおこなわれました。分裂酵母は優れたモデル生物であり、これを使って研究する分野は、細胞周期、微小管やアクチンなどの細胞骨格、核や細胞内小器官、染色体の構造・複製・分配・組み換え、RNAとたんぱく質の制御、シグナル伝達、オミックスとシステム生物学、などなど多岐にわたります。

これらの分野の研究の発表が朝9時から夜10時過ぎまで、口頭発表とポスター発表でぶっとおしで6日間おこなわれました。これは実にヘビーです。

自分の関係する分野でいえば、今回は特に、細胞骨格の細胞極性に関する研究発表がさかんにおこなわれました。フランスのSophie Martinのグループは特に優れた業績を出していると感じました。とても優秀な研究者ですね。わたしが彼女たちの研究が好きな理由は、とかく細かく小難しくなりがちな細胞極性の分野において、彼女らは常に誰にとってもわかりやすいシンプルでかつ重要な研究成果とメッセージを出しているからです。

以前、プレゼンテーションは分かりやすさが大切だという話をしたことがありますが、彼女のプレゼンは実に明解で分かりやすい。研究内容自体もシンプルなのに重要なもの。偉そうな言い方ですが、彼女はとても頭がいいのだと思います。尊敬してます。

あと私がロンドンでポスドクをしていた時代からお世話になっているJonathan Millarもとても良かったです。実は私は彼のプレゼンのときの英語が好きだったりします。ああいう英語でプレゼンするのが私の理想です。

2011年7月7日木曜日

海外学会といえば

先日ボストンで開催された第6回 国際分裂酵母学会についての続きです。

分野が多岐にわたる学会では、あまり自分に関係がない分野の発表のときは発表を聞いても分からないから、会場から出てしまいます。私はあまり発表をじっとして聞いているのが好きではないみたいです。あまりにも長丁場ですし。そこで、同じ理由で外に出てきた同業者、特に何人かの共同研究者と長く議論するのが学会でよくあります。実は私はこれが楽しくて学会に参加してます。

今回も、HFSP共同研究をしているAttilaや、同じく細胞極性を研究している他の研究者とかなり深い話ができました。また、スピンドル極体の共同研究者とも最新のデータをまじえて議論、意見交換しました。

その他にも、これまで知らなかった多くの方々と知り合いになりました。夜遅くまで発表があったにも関わらず、さらにそのあとに同業者(いわば朋友または戦友です)と毎晩バーに飲みに行き深夜まで飲みながら語りました。世界中の研究者と知り合いになれるソーシャルなところが、学会の楽しいところです。

ここで若い学生さんのためにアドバイスです。中にはそういう外国人とのソーシャルイベントが苦手な人もいるでしょう。でも大丈夫。私も大学院生の頃は苦手でしたが、最近それがすごく楽しみになりました。

こういう場面では、日本人にとって「英語が話せない」ということが最大の問題になるケースが多いです。

英語は大切です。これは英語嫌いな私でも認めざるを得ない絶対事項です。高校生や大学生は、英語の成績が必ずしも優秀でなくてもいいですが、できればきちんと学習しておくとよいです。私は大学院生のころは全然話せず、だいぶ苦労しました。

英語力は、極論すればアウェーゲームで発揮できるものでないと意味がないです。自分の経験から例えて言うなら、日本にやってきた外国人1人と日本で話すのは実は簡単で、英語力はほとんど必要ありません。ホームゲームだからです。周囲の日本人たちの英語に合わせようとアウェーを感じているのは外国人のほうで、そっちのほうが大変です。

自分の経験でいえば、自分が海外に行って、アメリカ人(イギリス人)10人+日本人は自分1人、という状況のなかで自分の会話ができるかどうかが英語力の問われるところです。

相手達は、誰もが英語を話すのが当然の環境の中で、容赦なく完全なるネイティブイングリッシュを浴びせてきます。単語も熟語も俗語も話すスピードも手加減ありません。日本人である自分が何も言わなくてもアメリカ人10人の間で会話が進むので、自分は一言も発しない、わらってごまかすというのが典型的な日本人、大学院生の頃の自分です。

アウェーでこそ問われる英語力、それを身につけることが望ましいですが、私もまだまだ学習途上です。

2011年7月4日月曜日

アメリカ東海岸で研究すること

今回はワシントンDC、プロビデンス、ニューヨークといった米国東海岸の日本人ポスドク研究者3人に会い、アメリカでの研究の様子を聞いてきました。

3人とも非常に優秀なポスドク研究者で、お会いしてはなしをうかがっただけでも、彼らの研究者としての意識の高さが伝わってきました。

3人とも違う場所、環境で研究しているので、意見はさまざまでした。お話を伺ってはじめて、米国にもいろいろな研究スタイル、研究者の生き方があるのだなぁ、と実感しました。

私はこれまで、米国の研究はとても競争的で研究所の人の異動が多い慌ただしい世界で、内容も臨床医学に結びつく生物学という、どの意味でも世知辛いステレオタイプのイメージをもってました。

しかし、実際にはそういうところも、そうでないところもあるという話を、そのそれぞれで働く研究者から直接聞いたことで、私のアメリカ東海岸のイメージはかなり変わりました。
あまり詳しく書くと各人に差し障りがあるといけませんからこの程度の書き方で勘弁してください。

誰しも行ったことのない所はちょっと敷居が高いものです。実際に訪問して話を聞けば、自分がそこで研究する具体的なイメージができると思います。

海外で研究してみたいけど自分には無理なのでは?と思っている大学院生は、何をモラトリアムなことを言っているのだ、無鉄砲に飛び込んでしまえ、と言いたいです。そしてこれは自分の独立ポジション探しにも言えることです。米国東海岸も考えてみることにしました。

2011年7月1日金曜日

ロードアイランド州プロビデンス

今、アメリカ合衆国、ロードアイランド州プロビデンスに来ています。

久しぶりに更新していきなり何をという感じですが、多忙にならざるを得ない日本を離れると、少し時間と気持ちの余裕ができたので、更新することにしました。

ではなぜアメリカなのかというと、今日の昼まで、アメリカのボストンで、分裂酵母の国際学会が開かれており、それに参加していたからです。

6月25日から30日までの会期が終わり、マサチューセッツ州ボストンからアメリカ版新幹線Amtrak Acela expressに乗り、次にロードアイランド州プロビデンスで下車しました。

プロビデンス(Providence)ってとてもいい地名ですよね。とても素敵です。
でも名前負けしないような、とても素敵な街でした。
今はまだ電車の中で写真を載せることができないのが残念ですが、歴史との調和がとれており、自然に恵まれ緑が美しく、とてもきれいな町並みとなっておりました。

プロビデンスで下車したのは、この地にあるアイビーリーグの名門大学であるブラウン大学で研究する日本人のポスドク研究者にお会いしたかったからです。実名は許可とってないので差し控えます。イニシャルトークもやめときます。

今電車のなかでこれを書いているのですが、電車がそろそろニューヨークに着きます。
それではまた

2011年4月1日金曜日

UK-Japan Cell Cycle Workshop

今月10日から、英国の湖水地方でUK-Japan Cell Cycle Workshop(日英細胞周期ワークショップ、以下UK-Japanと呼ぶ)という国際学会が開催され、私も参加します。

日本と英国の細胞周期の研究者をメインとした交流会の要素を兼ねた学会です。日本と英国で交互に開催され、今回は6回目にあたります。前回は2004年4月に奈良で開催されました。

その前は2000年秋に英国ケンブリッジにて開催されました。私は大学院生の頃、この2000年のUK-Japanに参加させていただきました。当時はそんなに細胞周期を研究していたわけではなかったのですが、「細胞周期」というのもかなり広い領域です。細胞周期制御そのものもあれば、そこから派生した様々な研究が発表されますから、私のポスター発表もそんなに分野的に的外れではありませんでした。その後、ロンドンのImperial Cancer Research Fund(ICRF:英国王立癌研究所、のちのCancer Research UK 英国癌研究所)で分裂酵母の小さな学会があり、それにも参加させていただきました。

このときはいろいろあったのですが、結果的にはこのときの訪英が、自分が英国でポスドク研究員をやろうと決断する、最初の大きなきっかけになったと思います。そのことはまた日を改めて書きたいと思います。

2004年には当時私は英国でポスドク研究員をやっていたので、英国から日本に一時帰国する形でUK-Japanに参加しました。このときも微小管結合タンパク質そのものの解析でしたから、細胞周期の一部でしかありません。今回は、細胞周期における微小管の制御に少し関連するので、これまでの自分の発表よりは「細胞周期」に近いかもしれません。

このときは、UK-Japanと一時帰国を兼ねて、3週間ほど日本に滞在しました。ちょうど日本も桜が咲き暖かい良い季節なので、日本でとても良い休暇が過ごせました。日本で25年くらい生活しているとどこが日本の良さなのか気づきません。海外で生活したことで、日本の良さに初めて気づきました。

それでは英国はイヤだったのかというと、そうではありません。英国をすごく懐かしく思いますし、英国には英国のかけがえのない良さがあり、それをポスドク時代にに経験できたのは本当に貴重だったと実感します。言葉が分からないのは実につらい反面、結構それで気楽だった面もあると思います。行かなかった人には分からない、行った人だけに通じる話なのかもしれません。

日本に一時帰国してすぐ感じたのは、(1)駅などでアナウンス放送がすごく多い(2)交通システムがしっかりしていて、客にも秩序がある(3)お店や商品、街ゆく人々が華やかだ(4)証明が明るすぎる(5)夜なのに営業している店が多い、、、などなどです。

英国の4月はまだ寒いはずですが、学会は楽しみです。
現地レポートする時間があると良いなと思います。

2011年3月31日木曜日

年度末ということで

震災の影響で普段にもまして更新が滞ってしまいました。

12月には特に1年を振り返らなかったので、この3月には、今年度のことを振り返ってみました。反省すべきポイントもあり、良かったポイントもありました。

HFSPとJSTにお世話になっている謝辞の意味も込めて、平成22年度のこの2つのプロジェクトについて少しまとめてみました。

HFSP共同研究としては、
5月はトレントで全員で顔合わせし、初めての会議。わたしは共同研究における遺伝学担当で、いろいろな株を作りました。蛍光タンパク質を酵母内で発現させる株がメインですが、改良に次ぐ改良で、なかなかうまく作れないときもありました。それでも今は研究員のかたの尽力でかなり進んできたと思います。自分一人ではここまで出来ません。「研究は一人でやるものではない」ということを、研究員さんの活躍をみるたびに、また海外の共同研究者との会議のたびに実感します。6月には、ケンブリッジ大学を訪問。11月にはインドのKeralaで開催されたHFSP meetingに参加。そして、11月下旬には東京で会議を開きました。トレントとケンブリッジから皆集合し、夜遅くまで会議、会議、、、。最後は東京観光でしめくくりました。うまくおもてなしできたでしょうか? 主催者側としていちばん大変だったのは食事でしたね。外国人の好みとか食制限があるので。そこは海外に住んでいたときの経験でなんとかクリアできました。楽しかったですね。またやりたい、また皆に日本に来てもらって、会議と余興で楽しみたいと思いました。久しぶりに欧州スタイルの研究を思い出すことが出来ました。

JSTさきがけ研究としては、
JSTの事務の方から研究者の仲間に至るまでお世話になりました。とても有意義な1年でした。領域会議は9月に神戸、12月に東京・本郷で行いました。9月の領域会議では理研CDBの見学もありました。CDBに行くのは初めてではないですが、今回は笹井先生による見学ツアーでした。行くたびに理研CDBのサイエンスに関する底力のすごさを見せつけられます。同じライフサイエンスを研究しているのに、まったく違う研究スタイルなので驚かされます。研究の中身が違うのは十人十色ですから当たり前ですが、なんかもう戦略というか、研究のスケールというか、思想そのものが完全に違う世界。個人レベルの研究ではなく、国家レベルというか。本当にすごいなと思いました。iPS細胞もそうですが、国家レベルで特定の研究分野をサポートすることの必要性が強まってきていると言われています。サポートというよりも、積極的な推進が。ただし、これには賛否両論あるところだと思います。12月の領域会議では白金台の東大医科研を見学しました。所内の正門近くに博物館コーナーがあり、野口英世が勤務していたこともあるという、歴史的資料を誰もが見ることが出来ます。1995年に私が大学院入試説明会のため初めて医科研を訪れたときとは白金台・医科研の雰囲気もだいぶ変わりました。肝心の領域会議では、領域総括の中西重忠先生から激励のお言葉をいただいたことは本当に励みになりました。今年度もっとも影響の大きいお言葉でした。中西先生はいつも「研究の世界がこれから将来どうあるべきか」を熱く語ってくださるのがとても印象的です。微小管の細胞周期における形態変化、ぜひライフワークにしたいところです。

明日から新年度です。

山本研究室にももうすぐ新4年生が研究室配属されます。
どの研究室に配属されるとしても、じっくりと年間通して実験、研究するというのはこれが初めてのことで、とまどいも大きいことでしょう。急ぐ必要はなく、着実に基礎を固めて欲しいと思います。

2011年2月15日火曜日

微小管は中心体から作られるのか 2


前回からの続きです。

Karsenti, Kirschnerらのグループは、繊維芽細胞から中心体を(核と一緒に)除去して、間期における細胞内微小管がどのような影響を受けるか調べました(1984)。

ひとことでいえば、中心体がない細胞では、間期微小管の数が激減しました。これだけでは微小管も一緒に遠心除去されただけかもしれないので、彼らはさらに微小管重合阻害剤(ノコダゾール)を加えて、ひとまず細胞内の微小管構造をすべて破壊しました。その後、ノコダゾールを洗い流し、通常の培養に戻すことで、微小管をいちから再形成させる実験をおこないました。

すると、中心体のある細胞では微小管が再形成されるのに対して、中心体のない細胞では微小管の再形成があまり活発ではないことがわかりました。すなわち、中心体は間期微小管を形成する機能がある、という結論になります。

同じく1984年に、同じくMitchisonとKirschnerがnatureの同じ号に2つの論文を出しています。そのなかの1つで、彼らは先ほどの論文とは逆に、細胞から中心体のみを単離して、試験管内において、単離した中心体が微小管に与える影響を観察しています(Mitchison and Kirschner, nature 312: 232-(1984))。そのなかで彼らは実際に、中心体には微小管を形成する活性があることを確認しています。

私がこのKirschnerグループの素晴らしいと感じたところは、さきのKarsenti論文で中心体をなくした細胞でのアッセイをするだけではなく、Mitchison論文では逆に中心体だけ取りだしてきて試験管内でアッセイすることで、議論をしっかりとしたものにしている点です。細かい実験の追加によって理論を固めるというよりも、別の大きな実験をおこなうことで検証・実証していく、これはわたしにとっては理想的なサイエンスです。

話がそれましたが、これらの論文の後に、前回紹介した1985年のKirschnerらの論文が続き、「微小管は中心体から形成されることで、選択的に13プロトフィラメントになる」という流れができあがります。

その後の細胞生物学研究の発展により、必ずしもすべての細胞質の微小管が中心体から形成されるとは限らないことも分かりました。分裂期のスピンドル(紡錘体)微小管も、すべてが中心体から形成されるわけではありません。

すると、疑問がわきます。これらの「中心体に依存しないで形成された微小管」は本当に13プロトフィラメントなのでしょうか?

ここで重要となってきたのが、微小管を形成する基点だと以前書いた「γーチューブリン複合体」です。昨年、David AgardとTrisha Davisのグループが、γーチューブリン複合体の構造についての論文をnatureに発表しました。

次回はそこから書きます。

2011年2月14日月曜日

微小管は中心体から作られるのか 1


前回、微小管のプロトフィラメントの本数は試験管内だと13-15本でまちまちだが、細胞内で作られる微小管は13本がメインだという話をしました。そしてどうも微小管が中心体から形成されると13本になるという論文の内容でした。

それでは、そもそも間期に細胞質に網目状に存在している微小管は中心体から形成されるのでしょうか。

1984年にはKarsenti, Kirschnerらが繊維芽細胞(fibroblast)から中心体を除去した細胞を調製することで、中心体が間期の微小管構造に与える影響を観察しました(Karsenti, Kobayashi, Mitchison and Kirschner, J. Cell Biol., 98:1763-(1984))。

だいぶ前に書いたように、培養細胞などの間期において、微小管は細胞質に網目状に存在しています。これらの微小管は大部分が中心体に繋がっているように観察されます(リンク先のThe Cellの図を参照)。


Karsenti, Kirschnerらの実験では、細胞から中心体を除去するために、遠心によって核を除去しました。当時おこなわれていた脱核(enucleation)の作業ですが、中心体は核にくっついているため、核を除去すると中心体も一緒に除去されることを利用して、中心体のない細胞を作りました。中心体のみならず、核も除去されるわけですから、実験結果の解釈には注意が必要です。今でこそ、laser ablation(レーザーによる細胞内オルガネラの破壊除去)が可能になってきて、中心体のみを選択的に除去することができますが、それは技術の革新のなせる業です。

さて、中心体を除去すると、微小管構造はどうなるのでしょうか。

次回はここからです。



2011年2月10日木曜日

13本でなければだめなんですか?


微小管を構成するプロトフィラメントの本数がいくつなのか、という話をしました。細胞内の微小管は13プロトフィラメントが大部分で、試験管内で重合させると14プロトフィラメントなどのmixになるということです。

どうして13なのでしょうか。14本ではだめなんでしょうか? その辺ははっきりしていませんし、生物種や細胞種で違うかもしれません。1985年のKirschnerらの論文では、神経芽細胞腫(neuroblastoma)から単離した微小管の82%は13プロトフィラメントだと記載しています(Evans, Mitchison and Kirschner, J. Cell Biol., 100:1185-(1985))。80年代にはプロトフィラメントに関する研究も多くみられましたが、その後あまり発展した印象を受けません。

細胞質微小管やスピンドル(紡錘体)微小管のみではなく、他のタイプの微小管はどうでしょうか?

特定の細胞、特定の生物種にみられる鞭毛や繊毛の中心部分の軸として、いわゆる軸糸(axoneme)と呼ばれる構造があります(図参照)。軸糸の根本の部分(基部)には基底小体(basal body)と呼ばれる構造があり、いずれも微小管を含みます。軸糸は、通常(注)13+10プロトフィラメントからなるダブレット微小管が円形に9本配列された「9+2構造」をとります。基底小体は、13+10+10プロトフィラメントからなる3連のトリプレット微小管が9本並んだ「9+0構造」をとります。中心体のなかの中心小体も、基底小体と同様のトリプレット微小管です。(注:世の中には10や11で描いてある図があって、どれが正しいのか、どれが一般的なのか私は調べてないのでよく分かりません。図もあくまでも模式的なもので、正確ではありません)

このように、軸糸や基底小体、中心小体含めて、必ずしも「13」がすべてではないですが、やはり原則13本というのはかなり堅い約束事のように思えます。

チューブリンを用いて微小管を作るときに、たまたま13本だと微小管が最も安定な構造になるとか、しなやかになるとか。あるいは逆に、13本で安定になるようにチューブリンが進化したと想像するべきか。まだ勉強不足で歴史的にどこまで分かっているのか自分で調べきれてませんが、少しずつ調べていこうと思います。

わたしは鞭毛・繊毛や微小管構造の研究者ではなく、絵を自分で描いてはみましたが、専門家のものには遠く及ばないので、正確な専門家の先生方の絵を参考してください。東京大学理学系研究科生物科学専攻の神谷律教授、廣野雅文准教授らのグループはまさに専門家でして、そちらを是非ご覧になってください。とても面白いです。両先生はもちろんのこと、助教の若林さん、柳澤さんにも大変お世話になっています。

そんなこんなで、13プロトフィラメントと14プロトフィラメントの微小管を自分で描いてみてはじめて気がついたのですが、13と14では断面図でみたときの大きさが違うことになります。


言われてみると数学的に当たりまえなんですけどね。Kirschnerらの前述の1985JCB論文の写真を定規で測ってみましたが、確かに13<14<15の順で断面が大きくなります。そりゃ、構造の違いが性質の違いを生み出す可能性はあるかもしれませんね。

2011年2月8日火曜日

微小管のプロトフィラメント(protofilament)

ずっと書こうと思っていたことに、微小管のプロトフィラメント構造のことがありました。

なぜ書かなかったのかというと、自分の中でどうしてもまだしっくりこないところがあって、そのもやもやが解消されるまで書けないと感じていたからです。

そんなこんなで数ヶ月書かなかったのですが、今日から書くことにしました。決してもやもやが晴れたわけではないのですが。

さて、ちょうど1年前に、微小管のマイナス端にはガンマ・チューブリン(γ-tubulin)が存在していて、そこから微小管が重合していく、という微小管形成中心(microtubule organizing center; MTOC)としてのγーチューブリン複合体のことを書きました。

MTOCから形成された微小管はダイナミックに重合と脱重合を繰り返すわけですが、その微小管本体はどういう構造になっているのでしょうか。

微小管という細長い管をハサミかナイフかですぱっと切ってみた断面図を上から見ると、大ざっぱに言って、tubulinが13個並んで輪になっている構図に見えます(下の図を参照)。


αーチューブリンとβーチューブリンが交互に1直線に並んだものを1本の「プロトフィラメント」と定義して、「微小管は13本のプロトフィラメントから成る」というように言います。1本のプロトフィラメントを、チューブリンがたくさん連なった細長い「串団子」だとすると、串団子を13本あつめて1本の微小管ができるというイメージです。


ここで不思議なのは、基本的に生体内(細胞内)で形成される微小管はプロトフィラメントの本数が13であることが非常に多い、ということです。これは1970年代から知られていたことです(Tilney et al., J. Cell Biol., 59:267- (1973))。

ところが、生体内ではなく、試験管内でチューブリンの重合を起こすと、必ずしも13とはならないということが1979-1980年にかけて明らかにされてきました。つまり、13, 14, 15本のプロトフィラメントからなる微小管が混在する状況なので、細胞内には、13プロトフィラメントの微小管を選択的に作るような何らかの仕組みがあると考えられてきました。

Tim MitchisonとMarc Kirschnerのグループは、1985年に発表した論文の中で、微小管は中心体から形成されることによってプロトフィラメント13本になるのだ、ということを示しています(J Cell Biol., 100:1185- (1985))。なるほど、これは理にかなっているかもしれない、重要な発見です。

次回に続きます。

2011年2月4日金曜日

細胞生物学会大会(2011年6月)

来る6月下旬に、第63回 日本細胞生物学会大会が開催されます。

以前書いたことがありますが、細胞生物学の分野の研究者が集まる学会です。もちろん微小管や細胞分裂も大きな話題のひとつです。
細胞生物が好きな人が多く集まるうえに、規模が巨大すぎる学会というわけでもなく、個人的にはすごく好きな学会です。

詳細は

http://www.aeplan.co.jp/jscb2011/

を参照してください。演題登録の受け付けが始まっております。

今年は6月27日〜29日、場所は北海道大学(札幌)というのも魅力的ですね。

とうぜん私も行きたいのですが、同じ時期にInternational Fission Yeast Meeting (国際分裂酵母ミーティング)という分裂酵母の学会もあるので、迷うところです。
1週間でもずれていたら両方行くのですが、まったく同じ日に重なっているので両立は出来ません。悩みどころです。

2011年1月14日金曜日

染色体ワークショップ

1/11-13の染色体ワークショップ(石川県 山代温泉)に参加してきました。

今回の学会でわたしが勝手に感じたキーワードは、「コンデンシン」でした。
コンデンシンは、現在は理化学研究所 基幹研究所(埼玉県和光市)に研究室を構える平野達也先生のグループが発見した染色体を凝集させるタンパク質のことです。細胞周期の間期では染色体は核内で凝縮してませんが、分裂期では(よく染色体の模式図が「X」の字の形に描写されているように)凝縮して染色体分配に備えます。分裂期が終わり間期に戻る際に、染色体は凝縮をやめて元に戻ります(脱凝縮)。この現象自体は昔からしられていましたが、この染色体凝縮を起こすタンパク質複合体として、平野先生のグループが1997年に発表したのが「コンデンシン」です。

コンデンシンはその発見以来、盛んに研究されてましたが、今回のワークショップでは特にコンデンシン研究の発表をする方が増えており、まさに「コンデンシンワールド」が展開されておりました。私は、平野先生がアメリカから帰国されたことで、日本のコンデンシン研究が爆発的に盛んになったのだという印象を受けました。こういう効果を生み出すっていうのは本当にすごいことだと思います。

京都大学 柳田充弘先生の情熱的な特別講演もあり、とても印象的なワークショップだったと思います。

現地は一面の雪景色で、わたしにとってはこれが今シーズンの初雪でした。東京はけっこう寒いのに全然雪が降りませんね。

2011年1月6日木曜日

海外パケットし放題 in インド


インドの携帯事情はとても良いという話をしました。日本からの旅行者にとっては、料金が気になるところです。それでも今はdocomoもSoftbankも(auも3月から)海外パケットし放題のプランがあるので、携帯はとりあえず料金を恐れることなくガンガン使えます。今回はSoftbank(iPhone)の海外パケットし放題を利用したのですが、特に事前申し込みも手続きも必要ないです。しかし特に何も設定できないのが逆に怖い。

純粋に、Softbankが提携するインドの携帯会社(キャリア)に繋げばいいだけ。注意すべきなのは、どのネットワークに接続するかです。現地に着くとiPhoneが自動でネットワークを探してくれるのですが、通常は複数のネットワークが自動検出されるので、どれかを選ぶことになります。そこで検出されるのは必ずしもパケットし放題のネットワークとは限りません。そういうキャリアのまま通信し続けると高額請求になります。

そこで、事前にパケットし放題のキャリアを確認しておいて(例えばVodafone INDIAとかAirtelとか)、それらのどれかを選ぶ必要があります。自分が接続したのがパケットし放題のネットワークか、それとも対象外のものかは、接続後にSoftbankから送られてくるSMSメールを読めば分かります。最初に接続したのが対象外のネットワークだったのですが、SMSのおかげで気づきました。
設定というような作業はこれだけ。本当にパケットし放題プランとして認識されているのか怖かったです。月額がある一定額を超えたら警告メールが来る設定にしてありますが、それでもやはり不安はあります。後日請求額をみて、結果的に海外パケットし放題が正しく機能していたことが分かりました。

ちなみに、私は5日間利用して、約21万円に相当するパケット通信をしましたが、パケットし放題が有効だったおかげで、実際の料金は7,000円程度でした。

次回は懲りずにインドの交通事情と寺院です。

2011年1月4日火曜日

本年もどうかよろしく

2011年もどうかよろしくお願いいたします。

今年はもう少し研究のこと、微小管のことを書きたいと思っています。できるだけ正確に、あるいはバランス良く書こうと思うと、完璧をめざすあまり更新が遅くなったり、満足いくものが書けずに更新しないことが多くなりがちです。そうなっては価値も薄れるので、とりあえず内容の至らなさを恐れずに、できるたけ更新していくことにします。

まずは、1/11〜13に石川県で開催される「染色体ワークショップ」に参加します。今年はなんと言っても柳田充弘先生の特別講演があり、楽しみです。