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2010年12月28日火曜日

インドの街を歩く(1)


毎度遅れての海外レポートです。今回は11月初旬にいってきたインド・ケララ州でのHFSP meetingの話の続きです。

学会が全行程を終えたのは深夜でした。シンガポール経由で日本に帰国するわけですが、ティルバナンタプーラム(トリヴァンドラム)発シンガポール行きの飛行機はその日は飛んでおらず(週2便)、出発するのは翌日の深夜。身動きが取れずに、とりあえずその日は普通にホテルに泊まります。

翌日も、フライトのある深夜までおよそ10時間という長い空き時間が生じました。共同研究者たちは欧州行きの便なので、朝にホテルを出てしまいます。その後、深夜までの待ち時間をどうつぶすか考えた末、せっかくだからとインド観光に出かけました。

私が思い立ったのはHFSPが公式に手配したインド観光ツアーが出発した後だったので、タクシーに一人乗り込み、Kovalam Beach Hotelから一気にインド最南端のカニャクマリを目指しました。「片道2.5時間だよ」と言われ、それなら往復5時間で、帰りのフライトにちょうどいいと考えたのです。この日の夜に空港で日本人研究者に再会したときには「いや、それはむちゃくちゃ勇気ありますねぇ、、、」と驚かれました。私はそのとき全然不安がなかったんですが。

なにしろ物価が安いから、タクシーを一日雇ってもチップ込みで6,000円未満。ただし安全は保証されていないので、海外旅行保険には加入しておいたほうがいいですね。

まず、車窓から見る「観光地ではない」インドの町並みはすごく面白かったです。学会会場はすべてが完璧にととのえられた本当にオアシスのようなリゾート地でした。それに比べてタクシーの車窓から見る素のインドの光景は、、、私の勝手なイメージですが日本の終戦直後か昭和20年代のイメージに近いと感じました。人々の服装もとてもきれいとはいえず、道路も最低限の間に合わせの舗装で道ばたは土埃が舞い、牛やヤギ、犬が寝そべっている。民家や商店はぐちゃぐちゃに建ち並び、ドアもなく屋根も傾き今にも崩れ落ちそう、でもそこで売っているのは欧米日本のものと遜色ない最新の携帯電話。


上下水道なんかまったく整備されてないように見えるのに、携帯電話網は異常なまでに整備されてます。山の中でも携帯電話に使う回線を土中に埋める工事をよくしてました。そのおかげで、どんな田舎でも私のiPhoneは的確にAirtelやVodafone Indiaの電波をキャッチできました(ちなみにSofabankの海外パケット使い放題)。


道中出会った村のいくつかはtaxi driverの言葉を借りればpoor villageだそうで、そのような文明があるのかどうか分からないようなぼろぼろな貧しい田舎の村に行っても東大事務からのメールが読める。ここは人々の生活が原始的なのか文明的なのかものすごい違和感があります。なんとなく、「20世紀少年」の新旧がまざったようなヘンな文明社会。

これなんか、どないやねん、っていう感じの不気味さ。こんなのが普通にごろごろ転がっている町並み。もちろん自分以外の外国人観光客なんかいないので、これらは観光ではなく地元民のための施設ですよ。


次回はそこから続けます。

2010年12月22日水曜日

JST菊地俊郎さんの本について(2)

昨日書いたJSTの菊地参事の本「院生・ポスドクのための研究人生 サバイバルガイド」ですが、もう少しだけ内容を書きます。

この本には、

(1) 研究者が大学院を出てから先、どういう就職先や身分があるのか。現在の状況と今後の情勢。

(2) 研究するにあたり不可欠である研究費。どのような仕組みになっているのか。最新情報を交えてまとめてある。

(3) 研究者として独創的であるためにはどうしたらよいのか。独創的な発想をするためのヒントと、研究費獲得のための具体的なアドバイス。

について書かれています。

なかなか踏み込んだ内容ですね。しかし、マスコミ記事にありがちな、日本が理系研究について抱えている問題を批判して過剰な不安をあおるような無責任で非建設的な内容ではありません。菊地さんの本は「ガイド」と銘打っているように、日本や世界の現状を踏まえて、そのなかでどのように「自分がやりたい研究」を推進していくのか、というポジティブな議論です。

菊地さんと直接お話しして感じるのは常にポジティブであるということです。私はこれはとても重要なことであると考えます。その菊地さんの人柄がぎゅっと詰まった一冊になっていると実感します。


(注)私は菊地さんから宣伝を頼まれているわけではありません(笑)

2010年12月21日火曜日

JSTの菊地さんが本を出版されました

さきがけが何なのかあまり説明してなかったですが、
科学技術振興機構(JST)という独立行政法人が出している研究者への助成金のなかに、「さきがけ」というものがあります。

国が選定する科学技術政策にあった研究領域を設定し、その領域に選ばれた若手研究者に助成金が出されます。たとえば、私が参加するのは「生命システムの動作原理と基盤技術」という領域でして、3年間の研究期間が与えられ、その中で研究を推進し、結果を出していきます。とてもこんな短い文章では「さきがけが何か」を説明することはできませんが、興味のある若い大学院生、大学生、高校生はJSTの「さきがけ」のwebsiteを見てみて下さい。私はさきがけを既に2年終えているので、残りはあと1年なのですが、さきがけに所属していられる間に、自分の目線から見た「さきがけの良さ」をここで書いておく必要があると感じています。

今日は、それが目的ではなくて、そのさきがけ「生命システムの動作原理と基盤技術」領域でお世話になっているJSTの技術参事である菊地俊郎さんが本をお書きになりました、というお話です。
タイトルは、院生・ポスドクのための研究人生サバイバルガイド」(講談社・ブルーバックス)です。


私も早速読みました。
とても生々しいなコレ!!(笑)
博士余り時代を生き抜く処方箋、という副題も、「高学歴ワーキングプアにならないために今、やるべきことは?」っていう帯も、業界の人にとってはかなり刺激的です。

自分のことを例にとって考えると、学部生や大学院生になったばかりのときというのは、あまり具体的に「ポスドク研究員になろう」とか考える人は少ないのかもしれません。漠然と、研究をやっていられたらいいな、と思ってはいても、具体的にその身分がどういうものなのか、どういう職場があるのか、研究費はどこから与えられるのか、何も知らないまま研究をはじめる人も少なくないはずです。

それは自分の例ですが(苦笑)、そういう大学院生時代にこの本を読んでいたら、もっと具体的な研究者像というものを描くことができたし、どういうところに注意しなければいけないのか、もっと心構えができたはずだと思います。そう言う意味で、特に若い大学院生くらいのかたにおすすめしたいと思います。

Amazonでこの本を買う

ちなみに、私は科研費などという言葉を知らずにポスドク研究員になったくらいです。自分はこういった反省?を踏まえて、その辺も同じ研究室の大学院生さんに伝えていきたいです。経験を伝えることしかできませんから。

日本は科学と技術で生き残るしかないといわれる一方で、「理系離れ」の時代とも言われてます。この本を読んでひとりでも多くの人がサバイバルしてくれればと思います。自分も含めて。時間があればこの辺も私感を書いていこうかと思います。

2010年12月20日月曜日

さきがけ公開発表会

本日はさきがけ「生命システムの動作原理と基盤技術」領域の第二期生による公開発表会でした。

皆素晴らしい成果をあげていることは言うまでもありませんが、それにしても「さきがけ」というシステムが生命科学の発展にどれだけ貢献してきたか、これまでの多くの研究者の実績には目を見張るものがあります。

昨年の事業仕分けによって今後かあやぶまれましたが、最悪の事態は避けられようです。事業仕分けのような言葉遊びゲームでこれまでの輝かしい業績をばかにするのはいかがなものでしょうか。

逆に、さきがけでもっと生命科学の課題が採択されるような領域を作って欲しいです。「生命システムの動作原理と基盤技術」領域の応募・採択の倍率は約30倍という異常なまでの狭き門でしたから。

2010年12月19日日曜日

さきがけ領域会議in小柴ホール

現在、さきがけ「生命システムの動作原理と基盤技術」の領域会議の真っ最中。

会場は東大・理学部の小柴ホール。完全にホームでの戦いですが、小柴ホールの壇上に立つのは偉い先生であることが多かったから、自分が立つのは緊張しますね。自分の口頭発表は無事に終わりました。

自分のことは棚に上げていいますが、いろんな分野の、しかもむちゃくちゃレベルの高い研究発表が続きます。これがさきがけです。





領域会議は国内の様々なところで開催しますが、自分のホームでの開催は感慨深いです。

明日は東大の一条ホールで公開発表会です。私は来年公開発表です。さあこれから一年間、さらに頑張らなければなりません。

2010年11月26日金曜日

HFSP会議in Tokyo

今月初旬にはインドでHFSP meetingがあり、共同研究者と打ち合わせをした話をしました。
インドの熱気がまださめやらぬ、といったところですが、実は今週、またまた共同研究者と会議をしてます。それも東京でです。

英国とイタリアの共同研究者のラボから、学生やポスドクが一同に会して、現状報告とそれに対する議論をして、今後の方針を決定するというのが狙いです。へたなmeetingよりもよっぽど強烈な議論ができるというか、この熱気は半端ではありません。3日間、部屋にこもって議論し続けます。昨日は夜11:30まで会議をしました。夕食は会議室の中で、弁当です。日本人以上に部屋にこもってますね。

今日もまだ会議が続いており、深夜までかかるのでは?と懸念が出てます。それでも充実しているから、全然嫌ではありません。もしこれが日本人のみによるきわめて日本的な会議であれば、3日はもたないでしょうね。私はもちません。

会議の雰囲気についてはまた後日書くことにします。インドのこともまだ書いてなかったですね。

会議に戻らなければ。。。

2010年11月17日水曜日

HFSP会議 in インド(3)social program


インドでのHFSP meetingですが、この会議はHFSPから奨学金や研究費を受け取っている人達が参加する会議です。となると、参加者がどのような研究をしているかというのは多岐にわたり、特に微小管とか細胞分裂とかに限ったものではありません。というか、細胞分裂の分野も多くの研究分野の一つですから、実際には同業者はあまりいないともいえます。

そうなると、学会の口頭発表も「自分の知らない分野」のものが必然的に多くなります。それでも、各発表はレベルが高いものばかりで、(自分のことを棚に上げて言うなら)HFSPの受賞者というのはレベルが高いということを実感します。

実際に、大学院で学位(博士号)をとった卒業生達がポスドク研究員として海外留学する際にHFSPの奨学金を獲得するのはとても難しく、狭き門になっています。わたしは当然、HFSP fellowshipなどとは縁がありませんでした。しかし、HFSP奨学金を受けている日本人のポスドク研究員も少なくなく、日本人研究者のレベルの高さと、HFSP事業における日本という国家の貢献度の高さを示しているといえます。今回何人か、海外で研究する日本人ポスドク研究員とお会いましたが、とても良い業績をあげていて、素晴らしいと思いました。

細胞分裂や微小管の研究発表もポスター発表・口頭発表あわせて2,3ありましたが(逆に言うとそれくらいしかない)、それは未発表データによるものですから、ここで言及することはできません。論文として公開される日を待ちたいですね。

このように、分野的にはライフサイエンスというだけで特にそれ以上焦点を絞っていないHFSP meetingですから、必ずしもすべて聞いて理解する必要がないと感じることもあるでしょう。そういう時間は、私は共同研究者と研究打ち合わせをしていました。共同研究者は欧州にいるので、顔を合わせて議論できる機会は年に数回に限られます。今回のインド渡航の目的の一つは、我々自身の今後の方針を決めることでした。有意義な時間が過ごせたと思います。

このHFSP会議のひとつの特色は、社交的な意味合いが強いということです。日本語だとちょっと違和感があるけれども、social programが充実しているということです。

例えば、学会の会期中、HFSPが公式に「インド観光ツアー」をいくつか企画していました。HFSPの意図には以下のような意味合いが含まれていると考えられます。つまり、世界中の異分野の研究者が仲良くなることで、これまで実現しなかったような異分野間研究(学際的研究)ができるのではないか、あるいは知り合いを増やすことで国境を越えたサイエンスの発展に貢献できるのではないか、という意図です。そのためなら、皆でツアーに出かけるだけでも、あるいは立食パーティーだけでも、意義があるということになるかもしれません。写真はある日のディナーの模様です。ホテルのビーチに特設ステージ上が設けられ、インドの伝統舞踊が披露されました。とてもエキゾチックですね。


そんな充実したsocial programのおかげで、国籍を問わず、会期中に新しく知り合いになった人が増えました。研究発表や討論以上に、ランチやディナー、ツアーが充実していたというと怒られるかもしれませんが、実はこの考えかたはとても重要で、英国・欧州ではこれを実感する場面が多かったです。これは欧州と日本の考え方の違いのなかでも、大きなウエイトを占めている気がします。

次回はインド体験について書きます。

2010年11月15日月曜日

シンガポール経由インド行き


学会が行われたのはインドのケララ州、ティルバナンタプーラム(旧名トリヴァンドラム)郊外のコヴァラム・ビーチというところです。

成田空港からシンガポール航空機でシンガポールに飛び、そこで乗り換えてシルクエアー機でティルバナンタプーラムに向かいます。

あいにくその日は関東地方に台風が接近中で、大雨の中、家を出ました。飛行機が遅れると、シンガポールで乗り継ぎできなくなり、以前のスイスでのHFSP共同研究会議における、経由地ロンドン・ヒースローでの悪夢再びということになります。。その次のHFSP会議もトレントで現地豪雨のため、経由地フランクフルトで足止めを食らいました。HFSP関連は毎回何かが起きます。

しかし、成田では豪雨であるにもかかわらず、無事に離陸、定時にシンガポールにつきました。ちなみに機体は超大型機のエアバスA380。シンガポール航空が積極的に利用している機体です。機内も新しくて、エコノミークラスなのに全席に電源プラグやUSB端子がありました。USBがあってそれでどうしろっていうのか分かりませんが(笑)。電源は、iPodとかPCを電池を気にせず使えるのはいいですね。

シンガポールでシルクエアー機に乗り換え、ティルバナンタプーラムを目指します。シルクエアーはシンガポール航空の子会社で、とても快適でした。インド行きの便であるせいか、機内食はカレーです。


現地時間の22時頃にティルバナンタプーラム(トリヴァンドラム)空港に到着。初めてのインドに期待と不安が。。。。

入国審査を終えると、学会が準備してくれたヴァンに乗り、コヴァラム・ビーチのホテルに向かいます。空港の外で車を待つのですが、ひろがる光景はインドそのもの。しかし、深夜なのであまり伝わってこない。これくらいなら、ロンドンのイーストエンド某地といい勝負で、シンガポールのリトル・インディアに比べればまだましで、、、。


しかし車が動き出してみると、その道中たるや、、、深夜なので状況がよく分からないのですが、今が21世紀であることを忘れてしまいそうな異様な光景、、、何やらとてつもない所に来てしまったことだけは確かです。良くも悪くも、暗闇の中でよく分からないまま、ホテルに着きました。ホテルは豪華なリゾートホテルで、とても良いところでした。しかし窓の外の景色は暗闇。朝になるまでどんなところか分かりません。

夜が明けて、ブラインドをあけてみると、青く澄み切った空、生い茂るヤシの木、白い砂浜と広大なアラビア海の光景!!


とても美しく、南国に来たことを実感します。こんなところで学会は成立するのでしょうか!?

(続く)

2010年11月12日金曜日

インドに行ってきました


先週は学会があってインドに行ってきました。インドに行くのはこれが初めてでした。学会はどうしても欧米で開かれることが多いので、珍しい経験です。最近はアジアでも日本の他に、韓国、中国、シンガポールなどで大小さまざまな学会が頻繁に開かれています。それでもインドは珍しいほうで、実際に学会参加者の大部分の人は今回が初のインド訪問になったみたいです。

今回の学会は、「Human Frontier Science Program (HFSP) Awardee Meeting」です。だいぶ前に書きましたが、私は英国とイタリアの研究者たちと共同研究をしており、それを金銭的にサポートしてくれるのがHuman Frontier Sceince Program (HFSP)です。1987年のベネチアサミットで日本の中曽根康弘首相(当時)が設立を呼びかけて組織された団体で、世界の生命科学研究者が国境を越えて研究すること(ポスドク留学することや、国際共同研究をすること)を支援してくれます。われわれのグループは幸運にもHFSPの援助を受けており、同じようにHFSPから支援されているポスドク研究員や研究者たちが参加する学会が、今回のように年に1回開かれるAwardee Meetingです。

日本からも、数名のHFSP受賞者たちが参加しました。皆初めてのインドです。写真は学会の会場です。



インドのサイエンスですが、あくまでも私のイメージとしては「第2のシンガポール」の立ち位置をを目指しているように思えました。インドの新しい産業として政府主導のもと科学を推進していこうという意志が強く感じられました。政府による潤沢な研究資金を準備し、また海外の研究者をインドに招聘してインドで研究してもらうことで、世界に「科学立国インド」をアピールしていくようです。将来的には、日本人研究者がインドで自分の研究室を持つ、という時代が来るのかもしれません。

欧米で研究しているような研究をインド国内で展開する、というやり方がある一方で、インド特有のサイエンスというものがあります。つまり、インドで伝統的に(あるいは伝説で)薬理効果があるといわれてきた薬品が、本当に効果があるのか、あるとしたら細胞や生物個体に対してどのような作用を起こしているのか、それを研究することです。今回の学会では、インド国内の研究者がそれらについて研究した結果を報告する発表もありました。こういうオリジナリティーは大事ですね。

偶然にも、先月COP10が名古屋で開催されました。ひとつの論点は、途上国から採取されたり、途上国で伝統的に使われてきた材料資源が、先進国に搾取されて途上国に相応の対価が支払われていないという問題でした。インドの伝統医薬などは、是非インド国内の研究者がその効果を明らかにしつつ、インドの研究が発展していけばよいのだと思います。

次回はインド体験記?を書きたいと思います。

2010年10月19日火曜日

微小管学会(2010年6月)とガンマチューブリン複合体の構造

じつに4ヶ月遅れの報告ですいません。
6月にドイツのEMBLで開かれた微小管学会(microtubule meeting)についての続きです。学会の内容は微小管の構造から機能に至るまで、私が想像していたよりも幅広い範囲にわたる学会でした。わたしは微小管そのものの構造を第一の研究ポイントにおいているわけではないので、構造学的な知識もなく、また学会での発表を聞いてもすごく良く理解できるわけではありません。たぶん日本語で発表されても私の理解度は変わらなかったでしょう。それだけ、私には微小管の構造についての基礎知識がないということです。

だからこそ、構造分野は自分で勉強するのは大変なので、こういう学会に参加して、100%の理解は無理だとしてもせめて基礎中の基礎の部分だけでも知ることができたら楽しめると思います。場合によっては、イントロ(研究の背景)だけでも分かればOKということにしてます。という情けない状況なので、どうか、微小管の構造について研究している方は私に教えてくださると助かります。


その中でも、私が特に感動した発表がありました。
UCSF(University of California, San Francisco: カリフォルニア大学サンフランシスコ校)のDavid Agard博士による、ガンマチューブリン複合体の構造についてです。


ここで気がついたのですが、当ブログでは、ガンマチューブリン複合体について一度も書いたことがありませんでしたね。それでは次回から、ガンマチューブリン複合体について書くことにしましょう。

東京大学、危機に立つ財政 明日はどうなる(朝日新聞)

朝日新聞、山上浩二郎氏による記事。

http://www.asahi.com/edu/university/toretate/TKY201010190308.html

今月12日に東大・安田講堂で開かれた浜田純一総長と前田正史・副学長理事による、東大の今後の施政方針と、予想される今後の財政危機の現状報告についての説明会についての記事です。

私も参加しました。

率直な感想としては、このような総長や理事が直々に「情報を共有して議論しよう」という会を開いたことはとても良いことだと思います。このような率直に議論しあえる場がないと、問題が顕在化しなかったり、一部の人達による「裏情報」という名の噂に尾ひれがついて、教職員は振り回されることでしょう。

財政について、東大に限らず、全国の大学教育と研究に大きな問題が生じている現状をきいて、やはり政治不信に陥る人も多くいたのではないかと思います。国民の意見を集める政策コンテストは今日が締切でしたが、そこで集まる意見を集計したときに、それが良いものになるのかどうか分かりません。

ぜひ、浜田総長には強いリーダーシップで頑張ってほしいと思います。

2010年10月8日金曜日

英国の移民政策

ノーベル賞学者8人、英の移民制限の強化に抗議

http://www.asahi.com/international/update/1008/TKY201010080126.html

イギリス・マンチェスター大のアンドレ・ガイム博士らノーベル賞受賞者8名は、英国の移民制限の政策に強く抗議する声明を発表したとのこと。


キャメロン政権では、EU圏外(non-EU)の外国人就労ビザの発給数に上限を設ける政策を掲げています。これが一般的な移民のみではなく、研究者にも適用されるというのが驚きです。8名のノーベル賞受賞者たちは、この政策のせいで英国が世界のサイエンスから取り残されるのではないか、と懸念している模様。

海外で研究する生命科学者からのメッセージ

久しぶりの更新になってしまいました。
6月の微小管学会のレポートから再開したいと思いますが、その前にひとつ宣伝を。

海外で研究する生命科学者の等身大のメッセージが聞ける、ビデオインタビューのサイト(Gallasus Video Library)があります。
http://gallasus.typepad.com/videolibrary/

最近言われていることですが、日本人研究者が海外に行きたがらない「内向き志向」があるとのことです。これは研究者に限らず、ビジネスの世界でも、若い社員が海外赴任を嫌う傾向にあるというのを聞きました。

私の意見としては、本人たちがそれでよいならよいと思います。敢えて海外に出る必要はないでしょう。そもそも、私が学生の時だって周囲はそんなに海外志向は強くなかったように思います。私自身も学生の頃は海外でポスドクするとは思ってませんでした。また逆に、海外に行けばnature, Science, Cellなどの有名誌に論文が出せると考えている人がいるとしたら、それは幻想です。

ではもし将来どうしようか迷っている人がいるとしたら、私は「自分の経験から」海外でポスドクすることを勧めます。その理由はいろいろありますが、私宛にメールをくれればその人にはお伝えしようかと思います。あまりここで書いてしまうと、日本に留まることを否定していると勘違いされてしまうかもしれないのでこれ以上は書かないことにします。

さて、上記のビデオインタビューのwebsiteですが、実は私の知っている人が出演していて、とても楽しく拝見しました。次回そのことについてもう少し触れます。

2010年9月2日木曜日

ヴェローナはイタリアの縮図のような街

順番が入れ替わってすいませんが、イタリア会議の最後はヴェローナです。

この街も市街地が世界遺産に登録されているのですが、この街を有名にしているのは「ロミオとジュリエット」でしょう。言うまでもなく英国の劇作家シェイクスピアによる戯曲で、その舞台となったのがこのヴェローナです。

物語はWikipediaやその他のサイトに任せますが、神聖ローマ皇帝派の家系と、ローマ教皇派の家系の争いがベースになっている恋愛物語です。ヴェローナは古くから縦横に行路が交わる交通の要衝で、このような2勢力がともに存在するような歴史的・文化的背景があるということです。

パドヴァに比べるとかなり大きな街ですが、それでも観光地は歩いて回れるほどの、ほどよいサイズの街です。観光客は多く、ちょっとしたショッピングもできます。

最も有名な観光スポットは、ジュリエット(イタリア名でジュリエッタ)が住んでいた家(ジュリエッタの家Casa di Giulietta)です。恋愛成就を願う人達の聖地のようなムードでした。恋愛成就を願ったり、様々な理由で恋愛に悩む人達がここを訪れ、ジュリエッタ相手に悩みを打ち明けている手紙が壁一面に貼られています。


実は、世界中の誰でもジュリエッタ宛に手紙を書いて相談事・悩みを打ち明ければ、本当にジュリエッタ(の秘書)から返事が届きます。相談メールのなかには、本当に真剣に、深刻な理由で悩んでいるものもあるそうです。以前NHKの番組で見ました。

微小管目当てで来る人が恋愛に真剣に悩んでいるかは分かりませんが、もし相談したい人は書いてみるのはどうでしょうか。性別はたぶん問わないと思います。日本語でも悪くないはずですが、やはりここは英語でしょう。もしあなたが中学生以上なら、悩みを英語で相談してみるのもいい経験ではないでしょうか。上手な英語である必要はありません。日本語で書くよりも正直な気持ちで書けるでしょう。

宛先は、
CLUB DI GIULIETTA
via Galilei 3
37100 Verona
Italy

メールもOKだというが、ここはやはり手紙でしょう。郵便代は各自で負担して下さい。

さて、じゃあヴェローナはそれだけかというと、それだけではないです。むしろそれ以外のキレイな町並みを是非見てほしいです。数々の教会は外観、内観ともどれも美しいものばかり。巨大観光地でないことで、等身大のイタリアの地方都市の教会を見ることができます。今回は観光旅行ではないのでほとんど名所を訪ねてないのですが、美術館・博物館になっているカステルベッキオの屋上?から見たヴェローナ市街の景色も本当に素敵で、ヴェローナと聞いたときに真っ先に思い浮かべるのはその景色です。
個人的な感想ですが、ヴェローナには、円形闘技場などローマのような遺跡や逸話があり、ミラノのような都会的なセンスがあり、トレントのような美しい緑の景色もある。イタリアの縮図のような街で結構気に入ってしまいました。ヴェネチアを訪れる人は多いかもしれませんが、ヴェネチア訪問の際は、日程に余裕があればヴェローナを併せて訪れることをおすすめしておきます。

2010年8月30日月曜日

二重らせん構造の落とし穴


EMBLを訪ねるのは今回が初めてではなく、前回の訪問から2年経っていないのですが、今回は微小管学会が開催されたのは初めてであるということ、それから学会の会場が新しく作られたATCトレーニングセンターと呼ばれる、鳴り物入りで建てられた建物でおこなわれるというのが今回初めてのことです。

なぜ鳴り物入りか、、、それはドイツの技術とデザイン性の粋を集めて建てられた(?)DNA二重らせん形の展示場のためです。バチカン美術館みたいです。名前がATC (advanced training centre)なので、こじつけで名前にGermanyとかを入れれば、ATCGとかになり、よりDNAっぽくなると思うのですが。
外観は、特に敢えてDNAの二重らせんを想起させるものではない、というよりも車の立体駐車場のイメージです。
しかし内部は、建物の壁に沿ってらせん状に廊下が巻いてあり、それが通常の建物の1階から8,9階相当?のところまでずっと続いていく奇抜な建築です。通常の、と言ったのは、この建物はいわゆる「階」という概念がなく、緩やかな坂であるらせんに沿って小さな部屋がずっと並んでいるからです。
とてもアーティスティック、すばらしいでしょう! このらせん状の廊下にポスターを貼り、研究発表するわけです。上の写真(の右上端)をよく見ると、確かにポスター板とそれを眺めている人達が見えますね。

通常ポスター発表は、だだっ広い展示場か会議室か、そんなところでやります。多くの人数を半分に分けて、半分ずつおこなっていくものです。例えば100人がポスター発表する場合、ポスター番号が偶数の50人は第1日に発表、奇数の50人は第2日、という具合にして、ひとつの部屋を一日交替で使うことになります。

しかし、このEMBLのATCの場合、奇数組と偶数組で、ポスターを貼る「廊下が違う」のです。

廊下が違うといって、なんのことか分かっていただけるでしょうか。うまく説明できませんが、DNAは二重らせんなので、らせん状の廊下は実は2本あるのです。つまり、写真で見られる隣り合う上下の廊下は別の廊下であり(ワトソン坂とクリック坂とでも呼べばいいのか?)、もともと1階ではそれぞれ別の入り口から登っていくことになります。
このままだと、もしワトソン坂の上のほうからクリック坂の上のほうに移動したいと思っても、一度1階に降りてからまた登ることになり、極めて理不尽な構造になります。

そこで、ところどころ、ワトソン坂とクリック坂がATやCGの塩基対のように繋がっていて、2つの坂を結ぶ「連絡通路」になっているわけです。これで問題解決です。
ところが、これは高所恐怖症の人には受け入れられない構造です。

実際、もしこれがイギリスなら、いつか崩落するぞって人々がささやく悪口が聞こえてくるでしょう。

EMBLはドイツですから建築技術は信じよう、でも鉄道大国スイスでも列車事故は起きるということを付け加えておこう。いや崩落する可能性があるかどうかにかかわらず、高いところは怖いって。床が半透明の曇りガラスなのがまたイヤなムードをかき立てます。無色透明ならもうそれは拷問でしかないですが。

この連絡通路が完成したとき、建築業者の人達が大勢この連絡通路に立ち、自らその安全性を立証してアピールしたそうです。それで崩落したら大惨事ですが。これはいわゆる、イナバ物置スタイルの立証、あるいは菅直人氏、カイワレ大根を食すといったところです。そういえば、この微小管学会の旅行中に首相が鳩山氏から菅氏に変わりました。また変わるのでしょうか?

というわけで、この建物、ポスター発表のしにくさでは群を抜いてすごい、実に不評な建物でした。でも「こういう建物を建てようと最初は半分冗談で言ってたけど、本気になってほんとに建ててしまう、で実際建ててみたら問題もあることが分かったけど、でも面白いよね。」というムードこそが欧州の雰囲気、欧州の懐の深さです。欧州のサイエンスは表面上それほどガツガツしていないのに、仕事の中身は奥が深いっていうのは、こういうことろに由来するのかもしれません。

最大の問題点は、事実上トイレが地下にしかない点です。これはいただけなかった。


2010年8月27日金曜日

6月はドイツEMBLでの微小管学会

細胞生物学会から一週間ちょっとで今度はドイツです。

6月に入ってすぐ、ドイツのハイデルベルクHeidelbergで開かれた微小管学会に参加してきました。5月の頭にはイタリアにいたわけですから、時差ボケもまだ治らないうちにすぐまた欧州です。


場所は、主催者であるEMBL (European Molecular Biology Laboratory:欧州分子生物学研究所)という研究所の本部があるところです。

EMBLは山の中にある。
このまえのトレントの研究所がそうだったように、研究所が山の上にあることはそう珍しいことではないですね。よく言われるのは、こういう人里離れた(そこまで離れていないが)場所で研究をすると集中できる、という説です。
わたしも欧州でポスドク生活をしていたときに、この説に妙に納得してしまいました。ちなみに私がポスドク研究員として働いた研究所はロンドンの中心地の一角にありますが、研究に集中できないということはありません、念のため(笑)。

この山の中というロケーションのおかげかどうかは分かりませんが、EMBLは分子生物学の分野、特に細胞生物学分野において、世界トップクラスのレベルと最先端の技術を誇っています。ドイツというと自動車(フォルクスワーゲンやメルセデス・ベンツ、BMWなど)などに代表される科学・技術立国のイメージがありますが、そのイメージは細胞生物学にも当てはめることができます。

最近は特に日本人のサッカー選手もドイツのブンデスリーガでプレーする人が多くなってきましたが、日本人とドイツ人は、根がまじめで勤勉家だという点で性格が似ていると言われます。EMBLにも多くの日本人ポスドク研究員がいます。スポーツでも科学・技術でも、日本人が活躍しやすい欧州の国だと言えるでしょう。多くの日本人、特に高校生にとってはドイツ語はほとんどなじみがないと思いますが、とりあえず英語からスタートすればいいと思います。EMBLの研究所では英語が公用語ですので、その点は心配要りません。大学1,2年(教養部)のときに第二外国語でドイツ語を選択するのも手ですね。

続く

2010年8月25日水曜日

大阪の日本細胞生物学会(2010年5月)

さて、イタリア訪問が5月のゴールデンウィークだったのですが、下旬には大阪での細胞生物学会に参加してきました。

わたしは大学院生の頃から日本分子生物学会には参加していたのですが、当時は細胞生物の分野の研究をしていなかったし、その後は海外で研究していたので、当時は縁がない学会でした。

そして日本に帰国した後、2年前から私はこの学会に参加するようになりました。学習院大学の馬渕一誠先生から是非入会してみてはどうかとアドバイスをいただき、それを機に参加するようになりました。


馬渕先生に誘われるがままに参加した日本細胞生物学会ですが、今はすごく気に入ってしまいました。

個人的に思う良い点は、

(1)参加者は皆、細胞生物学が好きである
(2)細胞生物学にフォーカスしており、発表の質が高い
(3)全体の参加者人数が多くないが、皆スペシャリストなので濃く深い議論ができる

というところですね。参加人数が多くはないので、学会運営上で大変なことも多いかもしれませんが、会場で研究者同士がコミュニケーションとりやすい、絶妙な良い距離感を生み出していると思います。新参者の私としては、日本細胞生物学会を大いに楽しんでおり、運営して下さる方々に感謝したいです。大学院生の方々も細胞生物の分野に関わるのであれば、是非この質の高い学会に参加してみるとよいのではないか、と思います。

来年は2011年6月27-29日、北海道大学で開催されます。
まだまだ先の話ですが、楽しみです。

2010年8月24日火曜日

パドヴァとヴェローナ



5月のHFSP共同研究会議 in イタリア、次に訪問したパドヴァについてです。

イタリアのトレントで会議を終えた後、往路の逆をたどるかたちで帰国するのですが、飛行機の空き時間が生じており、空き時間を利用してパドヴァPadovaとヴェローナVeronaを見てきました。目的は、世界遺産めぐりです。両都市のあいだにあるヴィチェンツァVicenzaのという街のパッラーディオ様式の建築も世界遺産登録されているのですが、残念ながら時間の都合で今回は立ち寄れませんでした。

トレントからヴェローナに着き、そこでヴェネツィア行きの電車に乗り換えます。個人的にはイタリアの鉄道というと、南イタリア、特にシチリアのレトロなローカル線のイメージと、極めて評判の悪い運行状況を思い出しますが、近年はIC(インテルシティ)などで新車両が目立ちます。それにさすが北イタリア、運行の遅れも5〜15分程度しかありません。パドヴァまで快適な旅でした。

パドヴァといっても日本人にはあまりなじみがないと思います。私も全然知りませんでした。
さて、観光するときにパドヴァで必見なのはスクロヴェーニ礼拝堂で、イエスの生涯がフレスコ画の壁画になっています。

ここは事前予約するか、当日訪問して整理券をもらい、その整理券に書いてある時間に集まって、ある決まった人数の団体として礼拝堂の中を見学するスタイルです。ミラノの「最後の晩餐」と同じスタイルです。私は当然事前予約しておらず、朝11時に現地で整理券を受けとったところ、記載された実際の見学時刻は13時30分でした。これなら悪くないですね。この空き時間を利用して、パドヴァの街を散策です。

パドヴァは、非常に古くからある大学都市です。パドヴァ大学はガリレオも教鞭を執ったことがある、とても有名な大学です。


土曜日だったので街はマーケットが出て、お買い物客や観光客でとても賑やかです。パドヴァは古くからある小さな街なので、賑やかな雰囲気は観光客向けに飾り付けられたものではなく、その地元の雰囲気をそのまま反映しています。英語はもちろん話さない地元のパスタ総菜店で買い物したり、ちょうど母の日の直前だったのでプレゼントに贈るお菓子とかも豊富に置いてありました。子供のおもちゃを探したり、市場できれいな食器を買ったり、そんな地元の雰囲気に浸れるのがこういう小都市のいいところです。


市内を徒歩で一周して、一番の目的だった、世界遺産に登録されているパドヴァの植物園を見ようと思ったのですが、さっきのスクロヴェーニ礼拝堂の集合時刻が近づいてしまい、植物園は断念しました。ここはヴィチェンツァとあわせて次の機会に訪問することにしました。礼拝堂は、ガイドの説明がイタリア語なので、イタリア人観光客が、イタリア人ガイドの言葉のどのタイミングで反応してどこを見るか、どういうリアクション取るかなど、人間観察に興じてしまいました。言葉は分からなくても、なんとなく雰囲気が分かるから不思議です。実際の礼拝堂の絵画の説明は、日本語ガイドブックに頼らざるを得ませんね。

そうしてパドヴァ散策を終え、電車でヴェローナに戻りました。
(次はイタリア編最終回のヴェローナです)

2010年8月20日金曜日

東大理学部で考える女子中高生の未来

お知らせです。

東大理学部からの広告を転載します。
まだ申し込みに間に合うといいですが。



東大理学部で考える女子中高生の未来

女子中高校生の皆さん、保護者の皆様、東大理学部で女性研究者による最先端の研究の話を聞き、研究室で気軽にお話ししてみませんか? 大学生活のこと、研究のこと、皆さんの質問になんでもお答えします! ぜひご参加ください。

【日時】2010年9月26日(日) 13:00-17:00(12:30開場)
【会場】東京大学本郷キャンパス 理学部1号館2階 小柴ホール
【対象】女子中高校生30名・保護者の方20名 参加費無料
【申込】2010年7月20日(火)より先着順にて受付開始
【申込方法】申込につきましては、こちらのURLをご覧ください。その他、注意事項を掲載しておりますので、ご確認の上、お申込を行ってください。

【主催】東京大学大学院理学系研究科・理学部 男女共同参画委員会・広報委員会

2010年8月18日水曜日

トレントでの遠足

イタリアのトレントで5月におこなった共同研究者との会合。

Rafael, Attilaの各ラボメンバーと遠足に行きました。
行き先はトレント郊外のワイナリー(ワイン工場)とガルダ湖(Lago di Garda)です。この地方は北イタリア屈指の湖水リゾート地で、そりゃもう景色が美しいわけです。ワイナリーではワインテイスティング(7,8種類)しかも各銘柄を1−2杯ぶんくらいは飲めるということで、とても楽しいひとときを過ごしました。

おみやげには地元のワインと、あとテイスティングで飲んだスパークリングワインがとてもおいしかったのでそれを買いました。

写真はワイナリー、写真前方の中央には共同研究者のRafael(英国ケンブリッジ大学ガードン研究所)です。私とRafaelは写真撮りまくってました。顕微鏡好きは写真を撮るのが好きなんだ、と思います(?)。

ワインと皿いっぱいに出されたチーズ、ハムを食いながら(テイスティングというよりは完全に軽食ですね、さすがイタリア)酵母の極性成長について語る、、、ことはありませんでした。何を話したか忘れてしまいましたが、各国の死刑制度の有無について話したことだけは覚えています。全然関係ないですけど。

その後、下の写真のガルダ湖です。ここは本当に湖水リゾートでして、皆が言うには、トレントの北方に位置するオーストリアと、イタリアの双方の文化のいいところがうまく融合した美しい地域だとのことです。




ここで巨大なアイスクリーム・パフェを皆(ひとり一個)食べて、夕方には研究所に戻り、そこでまた会議です。これだけ遊んだ後でも皆気持ちはすぐに切り替わり、会議はかなり白熱して、夜遅くまで議論しました。これはどの日もそうで、ある日には夜1時まで飲み食いしながら今後の展望、課題など話し合いました。こういうことをやってもストレスなく楽しくいられるのが欧州なんですよね。時差がある私にはその意味できつかったですけど。

そして、次回のHuman Frontier共同研究者ミーティングは、今年の11月に、東京でおこなうことになりました。今度は訪問する側ではなくて、皆を呼ぶ側です。外国人のお客様(10人程度の団体)をどこに連れて行けばいいだろうか、考えているところです。そこでまたみっちりと会議したあとは、土曜か日曜に出かける遠足を企画中です。彼らの東京のイメージは、やはり秋葉原という意見が目立ちました。ということで、風光明媚なイタリア湖水地方ツアーの次は、東京で秋葉原ツアーというのも、Human Frontier Science Program国際共同研究ならではのコミュニケーション方法ですね。

全然微小管と関係ないですが、もう1,2回ほどイタリアの旅行記?を書いて、順番でいくと次は5月下旬の大阪の細胞生物学会のことを書きます。

2010年8月17日火曜日

イタリア・トレント大学

お盆休みをとってました。暑いですね。


さて、イタリアのトレント大学です。
私の印象では、トレントは学生の街だと思ったくらい、学生の大群が駅から出てきてバスに向かう風景がみられました。意外とこの光景はイタリアで見たことがなかったので、とても新鮮でした。

トレントの町は歩いて回れるほどの小さな町なので、大学もそんなに遠くないかな、と思っていたのですが、実際わたしが訪れたトレント大学の研究所は町から外れた郊外にありました。距離的にはそんなに遠くないのですが、研究所は山の上にあるので、車で向かってもくねくねと山道をのぼっていく必要があります。

着いたところは、すっかり小高い山の中腹。こんな山の上に研究所があったなんて、、、。
(実際には山の上にある研究所は数多く存在します)
周囲の景色や山岳風景はすばらしいものでした。ある意味辺鄙なところですけれども、こういうところで研究すると、いいアイデアが浮かんだりするのかな、という気がしました。


写真が、The Microsoft Research - University of Trento, Centre for Computational and Systems Biology (CoSBi) です(トレント大学 マイクロソフト・コンピューターシステム生物学研究所とでも訳せばいい?)。さすがイタリア。まるでThermeの建物か?というムードでしょう。Thermeといってもピンと来ないかもしれませんが、平たく言えば欧州の温泉(スパ)施設です。まわりの美しい景色にとてもなじんでいて、やっぱり、「さすがイタリア」。研究所がこういう外観なのっていいですよね。中はまだ真新しく、機能的な研究所です。Centre for Computational and Systems Biologyということですから、生物を飼育して実験するような(いわゆるウエットな)研究施設ではなく、計算機による生物現象のモデリングとシステム解析をおこなう(いわゆるドライな)研究所です。オフィスのように整然と、だがきわめてイタリアン・スタイルで優雅にまとめられていました。美的にとても秀逸です。

これが研究所の窓から見える風景。いいでしょう? 同じ欧州の「山の上」にある研究所EMBL(ドイツ)のように、山の上にぽつんと研究所が一つあるだけなのとは違って、周囲にはリストランテ、ピッツェリア、民家など、結構あります。これは大学があるから当然といえば当然かもしれませんが。共同研究者Attilaの研究室がこちらにあります。

肝心の会議ですが、今回もきわめて高度な「概念的」なdiscussionをおこないました。概念的な議論ってどんなのか、それを例を出して説明するのは難しいのですが、日本の研究室でよくある議論が「現実的」な実験方法や実験計画について議論し、実験結果の善し悪しについて議論するのに対して、欧州では哲学的な部分から入っていくことが多いです。まず「我々が明らかにするべき興味はどこにあり、生命システムはどのようになっているのか?」についてさんざん語り合い、それが煮詰まったところで、じゃあ具体的にはどうやって実験すればいいんだ?というところで終わるようなやり方です。あまりうまく説明できてませんし、あくまでも一例ですが、雰囲気が伝わればと思います。今回の共同研究会議には、UCL (University College London)のJürg Bähler博士にもアドバイザーとして参加していただき、意見をいただきました。食事などして、いろいろ意見交換をするのも醍醐味です。私があんまり英語を理解していないのが情けないですが、昼飯にでっかいピザを食べながら、日英の大学システムについて意見をかわしました。

2010年8月9日月曜日

Trentoは近いような遠いような

5月にイタリアのトレントでHFSPの共同研究者とミーティングをしたことについて。

以前書いたように、現地にたどり着くまでにだいぶ時間がかかった、というのが第一印象でした。

もちろん日本からトレント近辺まで直行便は飛んでいません。最初私が思いついた方法は、比較的近場のミラノまで直行便で行き、そこからトレントまで電車で行く方法。これは悪くないと思ったが、成田ーミラノ便は毎日飛んでいるわけではなく、私が飛びたかった日には飛んでいなかったので、あっけなくこの方法はボツになりました。

というわけで、ドイツのフランクフルト空港までルフトハンザ・ドイツ航空で行き、そこで飛行機を乗り換えて、トレントに一番近い国際空港であるヴェローナ空港に到達するという方法にしました。

過去に乗り換えには痛い目に遭っているので(昨年チューリッヒでのHFSP共同研究者ミーティングでは、成田からロンドンに向かう飛行機が遅れたため、ロンドン・ヒースロー空港でチューリッヒ行きの便に乗り遅れた)、今回はたっぷり時間に余裕のある乗り換えプランを採りました。

乗り換えの待ち時間は4時間もあるので、さすがにこれで乗り遅れることはないはずです。しかも、フランクフルトには定時に到着。余裕で間に合い、空港の待合ロビーで、ずっとネットを使って仕事して時間を費やしました。

しかし、定時になっても搭乗のアナウンスはありません。現地ヴェローナの天候不良により、フランクフルトを出発できないとのころ。結局飛行機に乗れたのはさらに2時間後でした。フライトキャンセルに比べればまだましですが、実際のところ空港で6時間という半端な時間を待たされるのは疲れました。いかに現地ヴェローナが天候不良とは言え、ここフランクフルトは快晴なんだから、とりあえず飛べばいいのに。

この時点で、日本の家を出てから20時間になるわけです。さて、地元航空会社エア・ドロミーティの飛行機です。イタリアの、しかも小さな航空会社なんて信頼できるのか?という自問自答を何百回もして疲れた後だったので、おとなしく乗ることができました。しかしこの航空会社、すごく良かったです。外装・内装・乗務員の制服とも、イメージカラーの緑でキレイにまとめられてました。大手の、たとえばブリティッシュ・エアウェイズ(BA)の地方行きの便にはイヤというほど乗りましたが、BAよりもずっとシンプルでクリーンな機内・サービスでした。



ドロミーティ(ドロミテ)地方は、2009年に世界遺産に登録されたばかりの北イタリア、ヴェネチア北部にひろがる森林地帯、景勝地です。昨年登録されたとき、ここに行ってみたいが、なかなか行く機会がないだろうと思っていたのですが、こんなに早く、しかもドロミーティの名のつく飛行機で現地入りするとは。問題は、悪天候のため、ヴェローナ近郊で飛行機が揺れに揺れて、気分があまり良くなかったこと。航空会社のせいではないが。

ヴェローナはトレントに行くにはとても便利なんだけれども、ヴェローナ空港には鉄道が乗り入れてなくて、FSヴェローナ駅までバスまたはタクシーに乗らなければ行けないのが難点です。日本の家を出て既に22時間、現地の夜9時頃の真っ暗な中なんで、かなり限界を感じましたが、それでも4年ぶりのイタリアなので空港なり駅なりの雰囲気を感じ取って楽しもうとしました。

ヴェローナ駅では夕食として駅のスタンドでピザを食べる。駅のスタンドのファーストフードとは言え、さすがイタリアです。一人旅のイタリアの電車内で寝るなんて危機管理上あり得ない、というのは正論ですが、眠いものには逆らえない。ひとつだけ言えるのは、寝過ごさなくて良かったということ。

トレントでのホテルは、トレント大学で研究しているAttilaがとってくれたのですが、これが駅から近かったのが唯一の救い。かなりローカルな駅なのか、タクシーなど待機していない。現地時間の夜おそく、ガイドブックの地図を頼りに、雨の中ホテルまで徒歩。かなり疲れてストレスもたまりました。

朝起きてみたら、トレントの町はあまりにも美しく、それまでの不満が吹き飛ぶようでした。

トレントの駅です。朝は学生や通勤客でかなり賑わってました。こんな山のなかにあったんですね。昨晩は真っ暗闇で気づきませんでした。

そして、翌朝、共同研究者たちとの再会です。

2010年8月6日金曜日

5月から7月までのこと

この3ヶ月間にあったことを今更ながらに少しずつ振り返ってまとめておきます。

5月はイタリアのTrentoに行って共同研究者と会合してきました。
何回かこのブログでも書いたのですが、イタリアのトレントは本当にきれいなところでした。
まずはこのときの話を少しずつ振り返って書き込んでいくことにします。
トレントでの会議のあと、空き時間を利用して、近隣のヴェローナ、パドヴァも見てきました。
ともにとてもいい所でした。またその近くにはヴェネチアもあるのですが、今回はそこまで時間が無かったので行きませんでした。ヴェネチアは6年前(月日が経つのは早いものです)に行きましたが、世界に二つとないようなユニークな都市です。まだ訪れたことのないかたには是非オススメしたい観光地です。
というわけで、4年ぶりのイタリアを堪能したゴールデンウイークでした。

さらに5月下旬、これも前に宣伝したことですが、細胞生物学会に参加するため大阪に行ってきました。
こちらは9年ぶりの大阪でしたが、実のところ通天閣を初めて見たりと、ほぼ大阪初心者でした。
また後日書きますが、この学会は細胞生物学の濃い学会で、私はすごく好きです。
分子生物学会は博覧会のような大きな規模が時として不利に作用します。細胞生物学会は規模が小さいけれども、参加者は本当に細胞生物学が好きなのだなあ、ということが実感できるので、こちらまで嬉しくなります。

6月1日からは、ドイツのハイデルベルクに微小管学会に参加してきました。
私もまだまだ微小管のことは知らないことだらけなので、参加して一から勉強してきました。
そこで聞いた話の中では、ガンマチューブリンの話がとても印象に残りましたが、これは近頃natureに掲載されました。
その後古巣のロンドンに立ち寄りました。

7月は北九州市に行ってきました。これまたとてもいい所でした。

こういった話をこれから少し書いていこうと思います。
なんだか旅行記みたいです。

2010年8月4日水曜日

東大オープンキャンパスは盛況ですね

本日は東京大学のオープンキャンパスです。

自分の所属する理学部・生物化学科のコーナーを見てきました。


来場者の高校生(と中学生)の熱意は本当にすごいですね。
説明をする大学院生も得るものが大きいことでしょう。

2010年8月3日火曜日

東大オープンキャンパスは明日です

明日、8月4日は東京大学のオープンキャンパスです。

http://www.u-tokyo.ac.jp/event/opencampus2010/index_j.html

私が所属している理学部もオープンキャンパスで皆様のご来場をお待ちしております。

http://www.s.u-tokyo.ac.jp/event/open-campus/2010/

特に、高校生や駒場生のかたが対象みたいですが、その他の一般の方も大歓迎です。

東大のオープンキャンパスは基本的には事前登録制なのですが、今たまたまこれを見て知ったあなたも、理学部のオープンキャンパスなら事前の申し込みは不要です。もちろん無料ですから、是非来てみてください。

理学部では各学科ごとにブースが分かれています。私が所属している理学部生物化学科のコーナーもあります。各研究室の研究内容を、学生のかたがたが紹介していきます。

研究内容のこと、大学生活のこと、受験のお悩み相談、なんでもOKです。私も過去にオープンキャンパス委員をやりましたが、受験相談を受けました。。

夏休みということで再開

いろいろあって更新できない日々が続きましたが、高校生大学生が夏休みに入ったということで再開しようかと思います。

微小管ブログ、どうかよろしくお願い致します。

と同時に、ご意見、ご感想、ご要望、ご批判などございましたら、右に書いてある連絡先までメールを送って下さいませ。ブログ内でお名前公表とかしませんからご安心下さい。匿名でも全然問題ありません。

当ブログは基本的には、まだ研究とか考えたことがないような高校生から、そろそろ進路を決めなればならない大学の教養学部生、そのあたりの若い学生さんに読んでいただけるといいのではないか、、と思っています。私自身に専門的知識がないので(苦笑)、大学院生や研究員の方々には物足りないかとおもいますが、どうか本ブログの趣旨をご理解いただけたらありがたく思います。

とりあえず、近況報告や今後の予定などから書いて、次第に微小管の話にシフトしていこうかと思います。

2010年5月6日木曜日

大丈夫なのか?

先月起きたアイスランドの噴火が再発してUK北部とアイルランドを直撃している様子です。
http://www.asahi.com/international/update/0505/TKY201005050165.html

現在イタリア・トレントで会議中ですが、英国から来ている研究者は、ひょっとしたら戻れないのではないか?と言ってます。現在のところロンドンなどイングランド内の空港は問題ないので、まだ冗談の域を出ないのですが、今後の状況では笑えないかもしれません。
それに加えて、今週イタリア北部を襲っている豪雨のせいで飛行機が飛ばないのではないかという心配もあります。そうならないことを祈るばかりですが。

2010年5月5日水曜日

Trento Meeting

イタリアのトレントに来ています。ゴールデンウィークを利用して休暇、、、というわけではありません、残念ながら。

いろいろなことが重なって、自宅を出てからトレントのホテルにチェックインするのに24時間かかりました。最後は体力の限界に挑戦といったところでした。

朝になってみると、かなり激しい雨が降っています。ここ数日、北イタリア山岳地方は雨が続いているみたいです。昨日は豪雨のせいで飛行機が2時間遅れました。しかし街に出てみれば、とてもきれいな町並みで感動します。落ち着いた雰囲気はさすが北イタリアといったところです。


さてなぜトレントなのかといえば、だいぶ前に書いたのですが、細胞極性の共同研究は、英国ケンブリッジ大学のRafaelさん(元チューリヒ・スイス連邦工科大学)と、ここトレント大学のAttilaさんとおこなっているものです。今回は、第1回のチューリヒに続く、第2回打ち合わせということでトレントに集まっています。まだ会議が始まる直前なのですが、これからかなり密度の濃いミーティングが行われることでしょう。ヨーロッパの研究者が行うミーティングはとても密度が濃く、これを学べただけでも欧州に留学して良かったな、と思います。

そういえば前回のチューリヒ会議も、概して雨にたたられました。

さて、今回はどんな会議になるでしょうか?

2010年4月30日金曜日

微小管の脱重合はどこで起きているか


もしあなたが微小管を脱重合させることができるキネシン分子であったとしましょう。あなたは、染色体を中心体まで運搬しなければならないとき、具体的にどこに存在して微小管の脱重合をしていきますか?
前回の図をみながら考えてみましょう。

答えは主に2つに分けられるでしょう。
一つは、動原体との接着部位である微小管のプラス(+)端に存在して、動原体をくっつけたまま、パックマンのように(注)、微小管を食べて短くしていく方法です。

(注)パックマンという比喩が90年代以降の人にどれだ通用するのか分かりませんが、オンラインゲームとして、またはiPhone、DS、Wii、PSPなどで遊ぶこともできるので認知度は高いのかもしれません。学術論文でも頻繁にPac-man modelという言葉で使われます。

もう一つの答えは、中心体に近いマイナス(-)端において微小管を脱重合する方法です。イメージとしては、「釣り」を想像しましょう。あなたが中心体にいる釣り師で、動原体を釣るために釣り糸である微小管をひっかけたところです。リールをまわして釣り糸をたぐり寄せれば、釣られた動原体は中心体にやってくるでしょう。このような微小管マイナス端(中心体付近)における脱重合による染色体の動きをpoleward fluxと呼びます。極方向への流動ということです。同じ脱重合でも、中心体(マイナス端側)のキネシンは自分が動いていくわけではないので、Pac-manとは呼びません。

このように、anaphase Aにおける微小管の脱重合は、2カ所でおこなわれ、プラス端でのPac-man motilityと、マイナス端でのpoleward flusの両方の力が働いた結果、染色体は極方向に運搬されるのです。


2010年4月27日火曜日

微小管の脱重合とanaphase A


分裂後期A (anaphase A)において、染色体がスピンドル極(中心体またはSPB)の方向に引っ張られていくとき、微小管はどのように制御されればいいのでしょうか。

下図のように、まず巨視的にみてみると、中心体(SPB)と染色体の動原体部位との間を結ぶ微小管が短くなれば、動原体を中心体の方向に連れて行けることが分かります。


微小管を短くするということは、微小管を脱重合するということに他なりません。それでは、そのような脱重合活性をもつ微小管結合タンパク質は何なのでしょうか?

以前Cut7/kinesin-5のところで説明しましたが、キネシンは一般的には、微小管上でものを運ぶモータータンパク質として認識されています。すなわち、エネルギー分子であるATPを分解する活性(ATPase活性)を使って、キネシンが微小管上を歩くというものです。キネシン分子はアミノ酸配列上きわめて良く似ている(生物種間で保存された)キネシンドメインと呼ばれる構造をもちます。ここにATPase活性があるわけです。

しかし、ある特定の種のキネシンは、微小管上を歩くモーターとして働くのではなくて、ATPase活性を微小管を脱重合するために使っています。主にキネシン13(kinesin-13)グループに属するキネシンは脱重合活性をもつことが知られています。次回はこのキネシンがどのように関わっているのかをみていきます。

2010年4月23日金曜日

誰が染色体を引っ張るのか?


分裂後期anaphaseの開始がAPCによって行なわれることは既にみてきたとおりです。APCの活性化はセキュリンの分解を引き起こし、セキュリンからの阻害を受けなくなったセパレースによってコヒーシンが切断されます。これで姉妹染色分体のつながりが解除されます。

と同時に、分離された姉妹染色分体は、動原体を介して結合する微小管によってスピンドル極(中心体またはSPB)に引っ張られます。

確かに染色体を引っ張るのは微小管ですが、そのためには、微小管が特別な制御を受ける必要があります。どうしてでしょうか?

分裂中期に至るまで、スピンドル微小管は動原体を捕まえるためにダイナミックな挙動をしていたはずでした。すなわち、微小管は重合と脱重合を繰り返し、動原体を捕らえるために試行錯誤していたわけです。しかし、このような伸びたり縮んだりといった性質をもったままでは、anapahse Aにおいて動原体を一定方向つまりスピンドル極(SPBや中心体)の方向に引っ張り続けることが難しいということになります。

したがって、分裂後期anaphase Aにおけるスピンドル微小管の挙動は、分裂中期に至るまでのそれとは明らかに異なっているわけです。微小管のダイナミクスは微小管結合タンパク質によって制御されると考えるのが自然ですが、それでは分裂後期anaphase Aで染色体をスピンドル極にもっていくような微小管のダイナミクスはどのような因子によっておこなわれているのでしょうか?

それを担うのは、以前にも少し触れたことがある、キネシンと呼ばれるタンパク質ファミリーの、ある特定の因子だといわれています。次回はそれについて書きます。

2010年4月20日火曜日

染色体を分離する


チェックボイントが解除されると、いよいよ染色体が分配されます。この時期を分裂後期Aといいます。実際には英語でanaphase Aと呼ぶことが多いので、ここでもそう呼ぶことにします。

染色体が分配されるにあたってまず何よりも重要なのは姉妹染色分体をつないでいるコヒーシンの切断です。コヒーシンと呼ばれるタンパク質は、S期に染色体が複製されるときに染色体に結合し、複製された一対の姉妹染色分体が離れないようにつなぎ止めています。コヒーシンは輪のような構造をしたタンパク質複合体で、姉妹染色分体2本をくるっとひとまわりするようにしてつなぎ止めています。

分裂期にはそのコヒーシンのRad21というタンパク質が切断されるので、姉妹染色分体は離れ離れになります。

この切断を起こす酵素はセパレースというタンパク質です。セパレースはanaphase Aの開始時に活性化されますが、どうしてセパレースの活性化はanaphaseの時期に限られているのでしょうか?

anaphaseが開始するまでの間、セパレースの活性は、セキュリンというタンパク質によって抑制されています。しかし、微小管が染色体との接着を確立させて染色体分配の準備がととのうと、スピンドルチェックボイントが解除されて、後期開始複合体APCが活性化します。

APCはユビキチンリガーゼというタンパク質分解酵素で、セキュリンを分解します。その結果、それまで活性が抑えられていたセパレースが活性化できるようになります。そのためコヒーシンRad21は切断され、染色体が分配されます。

この現象はすべての真核細胞生物において共通ですが、これらの発見の多くは、Kim Nasmyth, Frank Uhlmann, 柳田充弘先生ら(順不同)、酵母を研究するグループによってなされました。大きな発見において、酵母の研究が重要な位置を占めていることは特筆に値します。

長い話になりましたが、スピンドル微小管が動原体を捕らえてから実際に微小管が染色体を分配するまでの一連の流れが分かっていただけるのではないか、と思います。

2010年4月16日金曜日

スピンドルチェックボイントの疑問点


それではいくつか、スピンドルチェックボイント機構に関する疑問点を挙げてみましょう。

(1)張力がかかっていれば、本当にすべての不具合は解消されたことになるでしょうか。微小管による動原体間の張力はかかっているのに結合様式が不適切だという状況はありうるでしょうか? 前回の図のMerotelic結合を例として考えてみてください。

(2)スピンドルチェックボイント機構は、例えばヒトでは23対ある染色体のどれかひとつでも微小管との接着に問題があれば活性化して細胞周期を停止させます。たった1カ所の異常でも効率的に細胞周期を停止させるのはどのような分子機構によるものなのでしょうか?

(3)接着も張力もOKのとき、スピンドルチェックボイントはどのように解除されるのでしょうか?

(4)接着に異常があってチェックボイントが働いたあと、もし微小管がなかなか形成されずに、いつまでたっても不具合が解消されなかった場合、細胞は、あるいはチェックボイントはどうなるのでしょうか。

想像上の話ですが、細胞分裂の各ステップがもし完璧に100%理想的に起きてくれれば、チェックポイント機構は必要ないのかもしれません。先日書いたとおり、酵母(分裂酵母や出芽酵母)では、スピンドルチェックポイントの構成因子であるMad2やBub1の遺伝子を細胞から除去(ノックアウト)しても、細胞が通常の増殖をおこなう上ではまったく影響は見られません。(ただし、微小管重合阻害剤をかけると、それらの遺伝子の変異体では微小管の異常を感知することができずに染色体分配異常を起こして細胞死に至ります。)

しかしながら、最初から100%うまくいくということは高等生物にはあまり期待できません。例えば、ヒトの細胞ではMad2やBubR1は必須の因子です。高等生物では酵母よりも細胞分裂が「難しい」ということなのでしょうか。それでも、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)においては、酵母と同様にチェックポイントは生育に必須ではないという結果が出ています。ハエは細胞分裂が簡単だといえるでしょうか??

酵母からヒトに至る細胞分裂様式の進化を考えるうえで、ここはひとつ大きなポイントだと思います。まだまだスピンドルチェックポイントの世界は奥が深く、分からないことが多く残されています。

2010年4月14日水曜日

というわけで英語サイト

場所だけ確保しました。

http://msmicrotubule2.blogspot.com/

英訳が追いつくのはいったいいつになるのか。。。

英語サイトについて

いろいろな状況を考慮してみたところ、当ブログ(の内容を)どうも英語でも公開したほうがいいのではないか、と考えるに至りました。

英語を日本語と同じサイトにまぜて書くと少し混乱する気がしたので、書くなら別の英語専用サイトを作ろうと思います。これまでに公開した部分のなかで重要な部分を英訳するつもりで、その手間もかかりますが、なんとかやってみようといったところです。

英語が上手ではないのはもともと気にしてません。もちろん、上手なほうがいいに決まってます。日々上達させるようにはしてます。でも下手である場合、書かないほうがいいのか、下手でもいいから書くほうがいいのか。今回は後者を選びたいと思います。スポーツ選手が(例えばサッカーやメジャーリーグなどで)海外の球団に入団するときに、入団記者会見の挨拶を日本語でやるべきではない、という話があります。簡単な挨拶だけでも、覚え立ての棒読みでも、間違っていても発音が下手でもいい。その考えを勝手に応用して、下手でもいいから書くことにします。読むnative speakersにとっては苦痛かもしれませんけどね。

しばらく英語サイトを立ち上げる決心をするのに時間がかかるかもしれませんが、ぼちぼち始めようと思います。こちらの日本語は今まで通りです。

2010年4月13日火曜日

二つのチェック項目


今日はいきなりですが、スピンドルチェックボイントは何を認識しているのでしょうか?

例えば、微小管重合阻害剤で細胞を処理すると、微小管が重合されないので、当然、動原体は微小管に捉えられません。ここではスピンドルチェックボイントが、微小管と動原体が接着していないことを認識します。スピンドルチェックボイントの代表的な構成因子としてMad2タンパク質が挙げられます。Mad2は微小管の接着していない動原体を認識して局在します。既にみたように、Mad2はBubR1とともにCDC20に結合して、CDC20がAPCを活性化するのを阻害します。従って、細胞は染色体分配を行うことができません。

これがスピンドルチェックボイントが認識する第一の場面です。

しかし、仮に動原体が微小管に結合していたとしても、それで完璧に準備完了とは言えません。

図のように、「間違った」接着がありうるからです。Amphitelic結合が、望ましい正しい結合様式で、これならチェックポイントを解除して染色体分配に突入してよいですが、他の場合には不適切だといえます。

このように、接着attachmentが起きていてもそれが不適切だと判断された場合には、スピンドルチェックボイントが働きます。ここではチェックボイントは、動原体に左右から張力tensionがかかっているかを認識しています。図のSyntelic結合の場合には、姉妹染色分体の2個の動原体はいずれも微小管によって結合されているものの、左右に引っ張られる張力が生じません。したがって、これが不適切な結合であるとして、スピンドルチェックポイントによって認識されます。

張力の認識はBubR1によって行われるであろうことが癌研の広田亨先生をはじめとするいくつかのグループによって明らかにされました。

張力がかかっていることを認識したうえで、細胞はいよいよ準備完了となり、スピンドルチェックボイントを解除して、染色体分配を開始します。

ところで、このようにスピンドルチェックポイントについて概略を示しましたが、いくつか疑問点を思いつくと思います。それを次回みてみましょう。

2010年4月2日金曜日

どのようにして細胞周期を遅らせるか


スピンドル形成チェックポイント(以下、スピンドルチェックポイント)はどのようにして細胞周期を遅らせているのでしょうか。

現在もホットな議論が展開される部分でもあり、生物種によっていろいろなデータや考え方があります。私はとても全部を理解しているわけではありませんので、一般的な解釈について説明します。

まず、細胞が「待った!」をかけたくなる状況というものはどんな場面でしょうか。

前回説明したように、分裂期に突入して、いよいよ染色体DNAを二組に分配するというときになって、微小管がなかなかうまく動原体をつかまえることができない場合、チェックポイントの出番です。もしここでチェックポイントが見張っていないと、細胞は分裂後期(anaphase)に突入してしまい、染色体の不均等分配が起きます。この場合、まだ微小管によって捕らえられていない動原体に、チェックポイントの構成因子のひとつであるMad2が局在して活性化し、「待った!」をかけます。

そもそも細胞周期はこの時期、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)の活性が最高潮に達しています。CDKはそのリン酸化酵素活性によって細胞周期の進行を一括して制御している重要な因子です。細胞周期をG1期からスタートさせると、G2期に向けてCDKの活性が徐々に高くなっていきます。CDKの活性がじゅうぶん高くなると分裂期(M期)に突入です。CDKの活性によって、分裂期に起きるべき様々な現象が適切なタイミングで起きていきます。染色体が微小管によって捕らえられる分裂中期に向かってその活性は最高潮に達するわけですが、そこから分裂後期に進行するためには、CDK活性を急きょ低下させる必要があります。

この役割を担うのが後期促進複合体(Anaphase Promoting Complex)です。あまり日本語名称は使れず、かわりに略称でAPCと呼ばれます。この活性はそれまでサイクロソームcyclosomeと呼ばれていた経緯があり、両名をAPC/cyclosomeまたは簡単にAPC/cと併記することも多くあります。大腸癌の原因遺伝子として知られるAPC (Ademomatous Polyposis Coli)や免疫の抗原提示細胞APC (Antigen Presenting Cell)とまぎらわしいですが、それらとは別の意味です。

分裂後期(anaphase)を開始させるためには、CDC20/Slp1/Fizzyというタンパク質(以降は単にCDC20と呼びます)がAPC/cに結合して活性化させるのですが、Mad2はCDC20に結合することによって、APCの活性化を阻害します。正確には、BubR1/Mad3というまた別のスピンドルチェックポイント因子もCDC20に結合します。Mad2とBubR1の両方がCDC20に結合することでAPCが阻害されます。

簡単にまとめると、微小管が結合しない動原体があるときは、Mad2がその動原体を認識します。Mad2とBubR1がCDC20に結合することで、APCは活性化できなくなり、CDKが高い状態が保たれ、細胞周期は分裂中期に停止し、後期には入りません。この時間稼ぎの間に、微小管がすべての動原体を正しく結合してくれればいいのです。

Mad2をはじめとするスピンドルチェックポイントの構成因子は酵母からヒトまで、幅広い真核細胞生物において保存されており、その重要性が伺えます。Madタンパク質は、Mitotic Arrest-Deficient(ベノミルによる分裂期停止に欠陥のある変異体)の頭文字、Bubタンパク質はBudding Uninhibited by Benzimiadzole (ベンズイミダゾールによる発芽停止に欠陥がある変異体)の頭文字をとったものです。そもそも、Cdc20やCDK(分裂酵母Cdc2や出芽酵母Cdc28)も酵母のcell division cycleの略で、すべて酵母の変異体単離から発見された因子です。これらをみても、酵母が細胞周期研究において先頭に立って分野を切り開いていった経緯を雄弁に物語っています。

2010年4月1日木曜日

新学期なので


いよいよ今日から新学期ですね。学生のかたはまだ春休みモードかもしれませんが、このサイトについてもう一度ごあいさつしておきます。

われわれのグループでは、分裂酵母という生き物を用いて、細胞のなかで微小管が担う役割を明らかにするために研究をしています。

このサイトは、われわれは何が知りたいのか? その背景にはどんなことがあるのか? どんなことをやっているのか?を多くのかたに理解していただくことを目的としています。

そのため、いきなり専門的な内容には飛び込まずに、できるだけ分野外の大学院生や、まだ研究をしていない大学の学部生、あるいは高校生にも理解してもらえることを前提として書いています。

今のところ、私が研究している分野の背景を大ざっぱに、ひととおり眺めているところです。細胞周期と微小管の関係、減数分裂と微小管の関係、細胞極性と微小管の関係、こういった柱があるわけですが。

私にこのまま書き続けられるだけの時間と力があれば、今後できるだけ専門的な内容や、具体的な実験の中身についても触れることができると思います。

2010年3月31日水曜日

スピンドル形成チェックポイント


前回、動原体が微小管によって両側から捕らえられる仕組みについて大ざっぱに説明しました。すべての動原体が微小管によって捕らえられると(= bipolar attachmentが確立すると)、染色体の分離が起きて左右に分配されます。

そこで問題になったのは、誰がattachmentの確立を監視しているのかという疑問でした。もし誰も監視してなかったらどうでしょう。染色体が左右に分離するのが「なんとなく」起きると仮定すると、まだattachmentできてない動原体があるのに染色体が分離してしまう、その染色体は微小管によって引っ張られることがないので、宙に浮いてしまって、置き去りにされてしまうでしょう。その結果、染色体分配異常を起こし、細胞の癌化あるいは細胞死の原因になる可能性があります。したがって、正常な細胞分裂をするためには、微小管による動原体のattachmentを監視する必要がある、といえます。このような監視機構の存在をスピンドル形成チェックポイントSpindle Assembly Checkpoint(紡錘体形成チェックポイント、スピンドルチェックポイント、あるいは頭文字を取ってSACなど)と呼ばれます。

以下、長いけど「スピンドルチェックポイント」と呼ぶことにします。スピンドルチェックポイントの機能を持つ分子はMad2やBubR1など、いくつか知られています。生き物や実験系によって、同じMad2やBubR1でも機能や性質がことなる部分がありますが、とりあえず分裂酵母のMad2に限って話をします。

野生型の細胞は培地上で正常な増殖を繰り返します。ここで、培地に微小管重合阻害剤であるMBCやTBZを入れてみたらどうなるでしょう。これらの薬剤によって、細胞内微小管の重合が阻害され、スピンドルが形成できない状態に陥ります。

しかし、よほどMBCの濃度が高くない限りは、なんとか時間をかけてスピンドル微小管を形成させて染色体分配をおこない、増殖します。スピンドルチェックポイントはここで、2つの機能を担います。1つは、スピンドルが形成されない細胞では微小管が動原体に結合できないわけですから、その未結合の動原体を見つけてMad2がそこに局在します。これで、チェックポイントのスイッチをONにします。このような認知機構に加えて、第2に細胞周期の停止を起こす機能があります。Mad2が活性化することで、細胞周期を進行させることができなくなります。(実際にはAPC/cの活性を阻害しているのですが、それは次回にします)

細胞周期が分裂中期で停止すると、染色体の分配が起きません。染色体の分配は、後期に移行してはじめて起きることだからです。こうして、微小管がまだ結合していない動原体が細胞内にあるときは、Mad2をはじめとするスピンドルチェックポイントの因子がそれを認識して活性化して、細胞周期を分裂中期に一時停止させることで、染色体の分配が起きてしまうことを阻止しています。その機能はまさしく監視機構といえるでしょう。

それでは、mad2遺伝子を細胞から除去したら(mad2破壊株という言い方をします)、細胞はどうなるでしょう?
培地にMBCやTBZを加えて微小管構造が崩壊し、スピンドルが形成できなくなったとき、Mad2がないので細胞周期を止めることができません。細胞周期は後期に突入し、微小管が未結合であるにもかかわらず染色体の分離が起きて、染色体分配異常を誘発します。チェックポイントの重要性が分かっていただけるでしょうか。

ここでひとつ疑問点があります。
分裂酵母はmad2がなくても、通常の培地では細胞が死ぬわけではありません。何事もないように正常な分裂をして生きています。つまりMad2は生育には必須ではありません。これに対して、ヒトなどの高等生物はMad2を除去すると(ノックアウトすると)、MBCのような薬剤を加えなくても普通の培地で染色体分配異常を示してしまいます。この違いはどうして起きるのでしょうか? 

まだ実験による「答え」は出されておりません。でも、これまでに数ヶ月間にわたって説明してきた内容のなかから、いくつかその「理由」と思われるものを探し出すこともできます。想像してみると良いでしょう。


2010年3月26日金曜日

カフェ文化


ここ数年、カフェという名のついた会合が多く開催されています。おそらく、フランスなどのカフェ文化を模して、真面目な議論や堅苦しそうな内容の会合を、気軽に茶でもすすりながら楽しくお話ししましょうよ、ということなのでしょう。

東大理学部でも、高校生のためのサイエンスカフェと題して、教室では敬遠してしまいがちなサイエンスの話を気軽にしましょう、という企画があって、もし私が高校生の頃にそういう企画があったならば、参加したかったです。最近は、女子高校生のためのサイエンスカフェという企画もあって、理学の裾野が広がっていくことが期待されます。

話はそれますが、毎年夏におこなわれる理学部オープンキャンパスでは女子中高生のための相談コーナー「リガクルミラクル」という企画があります。リガクルミラクルってすごいキャッチですよね。奇跡です。横山広美先生のブログよりその名の由来。

私がロンドンでポスドク研究員をしていた頃も、teaをすすりながら楽しくポスドク仲間と実験の話をして、というよりも世間話とバカ話のあいまに実験の話もして、楽しい時間を過ごしました。重要なのは、実際に優れた実験のアイデアはそういうムードの中でこそ生まれた、ということです。まさにカフェ文化の意義を身をもって体験したといったところです。

それ以来、あの頃のムード、研究のスタイルが私の将来の理想です。イメージするのは、フランスのカフェというよりももっと気楽なリスボンのカフェです。とっても甘い菓子を食べながら。

とはいえ、なかなか日本に日常的なカフェ文化を持ちこむのは難しいですよね。というのも、いい実験のアイデアが出てくるくらいの理想的なカフェであるためには、「たまにカフェでもやってみる」のではなくて、「カフェの中に日常がある」くらいのほうが効果的なので。

それではカフェをたくさん企画してみたらどうだろうか。

微小管カフェ
悪くないが、それ以上でも以下でもない。

動原体カフェ
どうも堅苦しい。

サイクリンカフェ
遊園地のコーヒーカップのイメージになってしまう。分解されるわけだし。

シグナル伝達なら、カフェイン耐性カフェ
楽しいのか苦しいのか。

やはり、リガクルミラクルにはかなわないな。マイクロチューブルっていっても全然よろしくないし。

染色体をどうやって捕らえるか?


3月は何かと忙しくなっていて、更新が遅れました。4月も新学期でいろいろありますが、文字だけでもいいから更新していきたいと思います。文章は大部分をiPod touchで書いているので、なんか変な日本語になってる部分も多いかもしれませんが、どうかご容赦を。

さて、今回は、染色体が微小管によって捕らえられるところの説明です。

前回、中心体が染色体の両側に配置される場面まで書きましたが、そこまでくれば、染色体分配するための準備は半分できたようなものですが、これからのステップもきわめて大切です。

微小管が染色体を捕らえるためには、微小管側の準備と染色体側の準備が必要になります。染色体側の準備は、主に動原体の準備です。動原体とは染色体の中央部分であるセントロメア領域で、微小管が結合する部分にあたります。動原体が正しく形成され、左右を向いていないと、左右から伸びてきたスピンドル微小管によって捕らえられません。このことは特に減数分裂で重要な意味を持っています。それはまた日を改めて、減数分裂の説明をするときに書きます。

そして、微小管側の準備です。微小管が左右両側から形成されることはもちろん重要ですが、さらに微小管のプラス端のダイナミクスが大事です。

微小管の極性について説明したときに、プラス端のダイナミクスこそが染色体を捕らえるのに必要だという話をしました。下図は微小管が染色体を捕らえる過程を模式化したものです。簡単のため、片方の中心体(SPB)のみを描いてあります。

微小管が重合することで微小管は染色体の動原体まで到達します。しかし、微小管は、最初から動原体がどこにあるのか知っているわけではないので、動原体めがけて一直線に伸びて行って一発必中で動原体を射止めるわけではありません。当然、動原体を通り過ぎ、伸び過ぎてしまう事もあります。しかし、それで「残念、失敗でした」で終わるわけにはいきません。微小管は脱重合して、もう一度動原体を狙うことになります。うまく射止めるまでこの繰り返しです。しかも、姉妹染色分体の両方の動原体が、左右それぞれから伸びてきた微小管に結合する必要があります。


このように、search and captureによって染色体が分配される下地ができあがります。すべての染色体で両極からの結合ができあがれば(bipolar attachmentが確立されれば、という言い方をします)、全染色体が一斉に左右に分配されます。いわゆる「分裂後期」の開始です。

と、ここまで書いてきて不思議に思う方もいるかもしれません。「できあがり」というのは、誰がその判断を下すのでしょうか。何本もある染色体のなかで、仮に一本でも、両極からの結合が完了していない染色体がある場合、その状態で一斉に染色体分配が起きれば、その染色体は左右に引っ張られずに、その場に置き去りにされるか、姉妹染色分体の両方が一方の極に連れていかれてしまうでしょう。このような染色体分配異常を避けるために、すべての染色体がbipolar attachmentを完了していることを完全に確認してから、染色体分配を開始さる「監視役」の分子機構があるはずです。

そのような監視機構は実在し、スピンドル形成チェックボイントと呼ばれます。次回はそこからです。

2010年3月15日月曜日

東大生化のwebsiteが新しくなりました

http://www.biochem.s.u-tokyo.ac.jp/

東京大学・理学系研究科生物化学専攻(大学院の名称)および、理学部生物化学科(大学学部の名称)のwebsiteです。

駒場の教養学部生(新1年生、新2年生)とか、それよりも若い高校生のかたとかがもっと理学部生物化学科に興味を持ってもらえると有り難いですね。ぜひ進学先としてご一考ください。

大学院では、東大以外の大学出身者であったり、東大の中であっても違う学部や学科から生物化学専攻に来るひとも多くいます。大学4年生の夏に、大学院入試があります。興味のある人はwebsiteをチェックするなり、メールで問い合わせるなりしてみましょう。

進学の方法と特色を大ざっぱに書きますと、、、

東大ではまず理科1類とか理科2類とか、おおざっぱな枠で入学試験が行われます。つい先日も前期の合格発表が行われました。これは、理学部○○学科とか工学部xx学科を受験するかたちで入試を行う大学とは大きく異なる、東大入試の特徴です。つまり、入学時には細かい専攻内容は決まっていない、決めなくていいのです。合格した大学新1年生は、教養学部(目黒区駒場キャンパス)に在籍し、一般教養を学びます。学生が、○○学部xx学科といった、それぞれの専門に分かれるのは3年生からです。

2年生のときに、自分が進学を希望する学部学科を申請し、夏に進学先が内定します。例えば、理学部生物化学科が定める定員以上の希望者がいた場合(実際、例年そうなってます)、全員は進学できませんから、大学での1年半のトータル成績順に、上位から合格内定していきます。いわゆる「進学振り分け」です。

めでたく生物化学科に内定すれば、大学2年の秋から専門科目の授業が始まります。自分が生物化学科に内定したときは「ああ、これから生化に進学するんだな」とその授業の専門性にとても感動しました。

無事に3年生になれば、駒場を離れ、文京区本郷キャンパスでの生活が始まります。生化の3年生は、火曜から金曜まで毎日、学生実習という実験があります。この時間に実験の基礎を学びます。ここでは、今後自分が研究していく上で必要となる基礎実験をじっくり学びます。このような、実験重視・基礎重視の姿勢が理学部生化のもっともすばらしいところです。ちゃらい実験のうわべをなぞったり、見た目華々しいような研究をちらつかせて学生をリクルートするやり方もあるかもしれません。しかし、生化はそういうスタンスをとりません。あくまでも、基礎充実・自主性の尊重です。このことが本当に重要なのだと感じるのは、学生をやっているときよりも、ポスドク研究員としてひとりで責任もって実験に取り組んでいるときにとても強く実感するものです。自分がそうでした。

生化のある理学部3号館には5研究室があります。生物化学科の4年生はこの5研究室のいずれかに配属されて研究します。大学院理学系研究科・生物化学専攻では、この5研究室以外にも、分生研や医科研その他の東大研究施設での研究も可能です。

大学院(修士課程または博士課程)から生化に来たい人は、先に述べたように4年の夏にある大学院入試を受ける必要があります。そのための説明会は4月にありますので、興味ある人は是非websiteを見て参加してみてください。

すべての人に生化がベストだなんていうつもりはありません。いろいろな学部学科をみて、自分の進学したい学科を決めてもらえれば、と思います。

2010年2月24日水曜日

キネシン-5/Cut7 ~ 分裂酵母のスピンドル(紡錘体)微小管形成 その3~


これまではスピンドル微小管の形成起点のことを中心体と呼んできましたが、前述の通り、酵母では正確にはSPB (Spindle pole bodyの略:スピンドル極体)といいます。高等生物の中心体と酵母のSPBは見た目の構造が違うだけで機能は同じと考えてください。話がなじんできたところで、これからはSPBと言う言葉を併記していきます。

前回までに、複製された2個の中心体(SPB)が隣り合ったまま核膜に存在していて、それらからスピンドル微小管が生えてきたところまで見てきました。スピンドル微小管が安定化されるためにはTACC-TOGやEB1といった微小管結合タンパク質が重要だということでした。

しかし、スピンドル微小管が染色体を分配するためには、中心体(SPB)が染色体の両側に位置することが望まれます。これは既に見てきた染色体分配の図に描かれていた通りです。

さて、どうやって2個のSPBが染色体の両側に位置するのでしょうか。ここで、キネシン-5というモータータンパク質が重要な働きをします。

キネシンは非常に多くの種類が存在しています。およそ5年前に、その機能や分子構造の違いからキネシンの大家族(superfamily)を包括的に系統分類し、名前を番号付けしていきました。それまではEg5, BimC, Cut7, ...これらのキネシンは生き物は違えど機能は類似しているのですが、それぞれの生き物の固有の呼び方で呼ばれていたために混乱を招いていました。
そこで、これらの「相同因子」を、まとめてキネシン-5という肩書きをつけることになりました。現在のところ、キネシン-1からキネシン-14まで14グループに分類してあります。

このキネシン-5は2量体などの多量体を形成し、微小管に結合してその上をプラス端に向かって移動していきます。分裂酵母ではCut7タンパク質で、分かりやすくするために、下の図のように、2量体を形成するとして考えてみましょう。あるCut7の2量体は、1分子ずつが、それぞれ別のSPBから生えた微小管に結合したとします。
ここで、微小管の極性が、SPB(中心体)にあるほうがマイナス端で、反対側がプラス端だったことを思い出しましょう。2量体を形成したままCut7のそれぞれが微小管の上をプラス端に向かって歩き出すと、結果として2本の微小管が逆平行(anti-parallel)に束ねられていくのが分かっていただけるでしょうか? そうすることによって、核膜上のSPBは少しずつ互いに離れていくことになります。最終的には、2個のSPBは、まるい核膜上の正反対側に位置するようになり、逆平行に束ねられたスピンドル微小管は核の直径の長さになります。分裂酵母ではそれが約2µmになります。このスピンドルのうえに、染色体が存在します。

これでやっと、染色体の両側にSPBがある「双極」のスピンドル(bipolar spindle)ができるわけです。では、次は、微小管はどうやって染色体をとらえて引っ張ることができるのか、を見ましょうか。

文献:
分裂酵母Cut7:
Hagan and Yanagida. Nature 1990
Hagan and Yanagida. Nature 1992
古いですが、学生の時読んでとても印象に残った論文2報です。
Eg5(ショウジョウバエのキネシン-5):
Mitchison. Phil Trans R. Soc. 2005
ちょっと難しく、内容も上記のものとはちがうトピックスについての総説ですが。

2010年2月19日金曜日

微小管結合タンパク質 ~ 分裂酵母のスピンドル(紡錘体)微小管形成 その2~


前回は、2個並んだ中心体からヒゲのような微小管が生えてきたところまで説明しました。ここから、微小管結合タンパク質がいよいよ登場です。

微小管結合タンパク質は、文字通り、微小管に結合するタンパク質です。微小管結合タンパク質は微小管に結合して、一般的に微小管のダイナミクスや挙動を制御します。あるものは微小管の先端にのみ存在(局在)したり、あるものは微小管全体に結合したりと結合様式は様々です。実はこれまでのステップにも微小管結合タンパク質は重要な役割を担っていたのです。例えば、微小管重合活性をもつγーチューブリン複合体もそのひとつです。

分裂酵母のスピンドル形成において、γーチューブリン複合体の働きによって2個の中心体から生えてきた短いヒゲのような微小管が安定して伸びていくためには、微小管結合タンパク質の働きが不可欠です。

重要な微小管結合タンパク質をいくつか挙げておきます。TOG (tumor overexpressed gene)と呼ばれる微小管結合タンパク質は、酵母からヒトまで真核細胞生物において広く保存されている微小管結合タンパク質で、分裂酵母ではふたつのタンパク質Alp14とDis1がTOGの相同因子です。TOGは、別のタンパク質TACC (transforming acidic coiled-coil)と複合体を形成することが多くの生き物で見つかっています。分裂酵母でもAlp14は、TACCの相同因子であるAlp7と複合体を形成します。TACC-TOGの複合体は微小管の安定化に極めて重要な役割を担うことが知られています。

また、EB1 (end-binding 1)という名の微小管結合タンパク質もひろく保存され、微小管の安定化に重要な役割を担います。分裂酵母ではMal3というタンパク質がその相同因子です。分裂酵母のスピンドル微小管形成において、中心体から生えた微小管が安定して成長するためには、TACC-TOG (Alp7-Alp14)、EB1 (Mal3)などが欠かせません。

ある特定の微小管結合タンパク質は微小管の上を移動します。微小管をレールだとするとその上を歩くイメージです。これらのタンパク質は微小管上を歩きながら別のタンパク質などをその線路に沿って運んでいく働きがあり、モータータンパク質と呼ばれています。キネシンやダイニンがこの部類に属します。
そして次回は、スピンドル形成における、あるキネシンの役割について説明します。

文献について
Dis1:
Nabeshima et al. Genes Dev (1995)
Nakaseko et al. Curr Biol (2001)
Alp7-Alp14:
Garcia et al. EMBO J (2001)
Sato and Toda. Nature (2007)
TOG全般に関する総説:
Ohkura et al. J Cell Sci (2001)
Mal3:
Beinhauer et al. J Cell Biol (1997)
EB1総説:
清末優子 微小管プラス端集積因子(+TIPs)の伸長端認識メカニズム 実験医学3月号 (2008)
Asakawa and Toda. Cell Cycle (2006)
敬称略。あまり詳細に文献を引用していないことをお詫び申し上げます。

2010年2月17日水曜日

マイナス端では何が起きているか? 〜 分裂酵母のスピンドル(紡錘体)微小管形成 その1〜


さて、中心体側には微小管のマイナス端が位置するという話をしました。細胞内のスピンドル微小管(紡錘体微小管)において、マイナス端は実際にはどのようになっているのでしょうか?

前々回の図にも書いたように、マイナス端にはγーチューブリン複合体と呼ばれるタンパク質群がキャップ状にくっついています。これは、本来微小管が重合されるときに、重合起点として働くものです。これを微小管形成中心(MTOC; microtubule-organizing center)といいます。

つまり、微小管はγーチューブリン複合体から重合していくことになります。そのため、γーチューブリン複合体はマイナス端側に存在し、一旦微小管を重合させたあとは、さらなる重合や脱重合が起きないようにして微小管マイナス端としてのダイナミクスをさらに抑えます。

これらをふまえて、酵母のスピンドル微小管がどのように形成されていくのかをみてみましょう。

1個の間期の細胞は、最初は1個の中心体を持っています。細胞周期が進むにつれ、中心体は複製されて2個になり、その2個が核膜のうえで隣り合った状態で分裂期に突入します。

隣り合った2個の中心体のそれぞれには、γーチューブリン複合体が存在しています。そのため、中心体を微小管形成中心(MTOC)として、スピンドル微小管が形成され始めます。そして、形成され始めた微小管のマイナス端は、そのままγーチューブリン複合体によってキャップされ、中心体に束ねられています。

ここまでで、図のように微小管が2個の中心体からヒゲのように核内に向かって伸びていく様子が分かっていただけたでしょうか?

この状態からどうやってスピンドル微小管に育っていくのか、まだまだ先は長いといったところでしょうか。

2010年2月15日月曜日

スピンドル微小管(紡錘体微小管)における微小管の極性


前回の最後に、動的不安定性によってダイナミックに伸び縮みしている微小管が本当に細胞の中で機能できるのかという問題を提起しました。それに答えるためにも、今日はまず両末端の性質についてもう一歩調べてみましょう。

プラス端とマイナス端、これら両末端の特性がどのように生かされいるのか、酵母の分裂期のスピンドル(紡錘体)微小管を例にとって考えてみましょう。既にみたようにスピンドル微小管は染色体(複製された姉妹染色分体)を両側から捕まえて引っ張り、左右に分配するのが役割です。つまり、左右には中心体があって、微小管が束ねられているわけです。


分かり易くするために、全体の左半分だけ見てみましょう。微小管は、左端に位置する中心体と右側の染色体の間に存在していますが、この微小管のどちらが一般的にプラス端でどちらがマイナス端か予想してみてください。ヒントは、プラス端はダイナミックだという性質です。

正解は、右側の染色体サイドがプラス端です。プラス端特有のダイナミクスは、スピンドル微小管が染色体に向かって伸びて行って、染色体の中央部分である動原体を捕まえることに利用されます。微小管を腕に例えるならば、染色体の動原体を捕まえるためには指先をダイナミックに動かしたほうがやり易いでしょう。

微小管のプラス端がにょきにょき伸びていくイメージが沸いてきましたか?

なかには、中心体側こそがダイナミックであるべきだと思ったひともいることでしょう。それも一理あります。中心体側つまりマイナス端はどのようになっているのか、次回はそのあたりから続けてみることにします。

(酵母の中心体は正確にはSPB (spindle pole body)と呼びますがそれはまたいずれ説明するということで、ここでは中心体という言葉で統一します)

2010年2月12日金曜日

微小管の構造


話を極性成長からスピンドルに戻すにあたって、まず微小管というものが何であるかについて調べてみましょう。

微小管という細胞内構造はとても長い繊維のような構造ですが、タンパク質でできています。研究していると当たり前のことになってしまい特別には意識しないのですが、時々この事に気づかされてはっとします。

微小管(microtubule)は2種類のチューブリン(tubulin)というタンパク質(αとβ)が数珠つなぎになった(=重合した)ものです。


図のように、α-チューブリンとβ-チューブリンからなる2量体が整列して重合していくわけですから、当然、重合してできた微小管には「向き」ができます。これを極性といいます。細胞の極性とはまた別に、微小管という繊維状の構造物にも極性があるわけです。微小管の末端のうち、α-チューブリンが露出している末端をマイナス端、β-チューブリンが露出しているほうをプラス端と呼びます。試験管内で重合させた微小管は、プラス端側でもマイナス端側でも重合をおこないます。しかし、プラス端のほうが重合速度が圧倒的に速いことが知られています。

チューブリンはGTP結合タンパク質です。α/β-チューブリン2量体が重合していくとき、GTP結合型のチューブリンがどんどん重合していきます。重合したチューブリン2量体ではGTPの加水分解が起き、GDPになります。このGDP型のチューブリンが微小管の末端にあるときは、末端からばらばらになり易い(脱重合しやすい)性質があります。ですから、重合が盛んに起きているときには、末端は安定に微小管を伸長させますが、盛んでない状況下ではGDP型のチューブリンが末端に存在しがちになり、基本的に脱重合する運命にあります。

ということは、ひとたび微小管が形成されてしまえば、なかなか長さ不変というわけにはいきませんね。重合し続けるか、脱重合するか。微小管はこれを繰り返して、ダイナミックな繊維として存在します。このような性質を微小管のダイナミック・インスタビリティ(動的不安定性)と呼びます。

じゃあそんなに微小管がダイナミックなら、微小管は染色体分配などの機能を落ち着いて発揮できないんじゃないの?と思うかもしれません。その辺を次回見ていきましょう。

2010年2月10日水曜日

極性に異常のある変異体の単離


酵母のいいところは遺伝学が使えるところです。
具体的にいうと、もし極性がどんな分子によって作られるのかを知りたかったら、極性に異常のある変異体を単離すればいいのです。もちろん言葉で言うほど実際の実験は簡単ではありませんが、ある意味他の方法では代用がきかないような遺伝学の王道です。また、これまで誰も見たことがない症状を出す変異体を見つけ、それがなんの遺伝子の変異であるのか、なぜそのような症状を出すのかを知ることは宝探しに似たようなワクワクした感覚だと言うひともいます。

極性に異常を示す分裂酵母の変異体はいくつかのグループによって単離されました。極性に異常のある変異体といって具体的にどんな形のものを思い浮かべますか?

あるものは真ん丸の形になってしまい、あるものは細胞がバナナみたいに折れ曲がってしまったもの、またあるいは細胞の真ん中あたりで急に成長する方向を変えてT字型になってしまうものと、その形態は様々です。

真ん丸になった変異体は、どこが細胞の末端かが分からなくなってしまった細胞かもしれません。バナナ型の細胞は、細胞の進むべき方向が何らかの理由で少しずれてしまったのでしょうか。

ここで我々は、細胞の末端がどこであるかを知らせてくれる因子の存在を仮定すれば話がスムーズにいくことに気がつくでしょう。そのような末端の場所を教えてくれる因子のことをエンドマーカーと言います。

すると、正常な細胞(野生型)では細胞の両端にエンドマーカーがあるのに対して、真ん丸の変異体ではエンドマーカーがなくなってしまった、あるいは正しい末端に存在できなくなった(局在できなくなった)細胞かもしれない、となります。

ではそういうエンドマーカーは実在するのか?

次に極性について書くときにはその点について調べていきましょう。

極性に関する話が長らく続いたので、ひとまずこのくらいにして、また話をスピンドル微小管に戻します。

2010年2月2日火曜日

極性に関する「なぜだろう?」


昨日書いた「極性に関するいろいろな謎」ですが、

例えば、
・なぜ細胞の成長は長軸方向(図での横方向)に限られるのだろう?
・なぜ分裂期には細胞は成長しないのだろう?
・分裂期が起きる時期と細胞の長さ(成長の度合い)の間には連携機構があるのか? (細胞がある程度まで成長しないと分裂期に入らないというようなシステムがあるのか)
・もし仮に分裂酵母の細胞が極性成長できないなら、そのときの細胞の形はどんな形だろう?あるいは、細胞の生死には影響がないのだろうか?
などが挙げられます。

もちろん、今日でもまだすべての謎が解かれているわけではありません。こういった「誰でも思いつきうる疑問」から研究は始まっていくのです。

2010年2月1日月曜日

極性成長2 古い末端と新しい末端


やっと本来の微小管の話に戻ります。
今日は極性成長に関する第2弾です。

分裂酵母には細長い極性があるということは先日書いたとおりです。つまり、細胞の両端のみが、細胞の成長する場所になっているわけです。細胞の成長端は決まっていて、その方向に成長していくのが極性成長です。
面白いことに、分裂酵母では、細胞の右側と左側では成長を始めるタイミングが違うーーNETOというーーという現象があります。わりと古くからこの概念が提唱されています(1985年)。NETOとは何でしょうか?

図をみながら、細胞周期の分裂期からスタートして考えてみましょう。分裂期には細胞の両端は成長しないで一定の大きさを保ちます。そしてスピンドル微小管が形成されて染色体が分配されますが、その後、細胞質分裂(cytokinesis)が起き、隔壁(septum)によって2個の細胞へと分裂します。新しい細胞の誕生です。

ここで新しい細胞の1個に注目してみましょう。図のように、生まれた細胞の左右の末端はまったく同じではありません。図の左側の末端は、分裂前から末端として存在していた、いわば古い末端(old end)です。これに対して、右側の末端は、分裂前は細胞の中央部であったわけで、隔壁によって新たにできたものですから、新しい末端(new end)です。このように、生まれたての細胞には、新しい末端と古い末端があります。

その後、細胞の両端は前回述べたように極性成長していくわけですが、古い末端が先に成長を始め、新しい末端の成長はそれよりも遅れます。新しい末端の成長が始まることをNew End Take Off (NETO) と呼びます。

それではなぜ新しい末端の成長は遅れるのでしょうか? 図をヒントとして想像してみてください。タネあかしをすればアクチン(と微小管)が鍵ですが、それが何であるかを知らない人でも、まず図を見てなぜ2つの末端の成長がずれて起きるのかを想像してみるのがよいと思います。

このようなシンプルな疑問から細胞極性成長の壮大な分子メカニズムの探究がはじまったわけです。よく考えてみると、これまでみてきた極性成長の説明文の中には、他にも極性成長における重大な謎がいくつか潜んでいます。なにか思いつきますか?

話がずれますが、
「これが起きるのはなぜだろう?」というシンプルな疑問があって、その謎を解きたいと思うのが科学の面白さだと思います。その気持ちは小学生でも研究者でも同じようなものです。
そのためには細胞なり生物なりで起きている「現象」をじっくり観察することが大事です。中高生、大学生の理系離れというのは、そういう面白さよりも、専門的な知識の詰め込みが先行しているからなのかもしれません。学生時代理科嫌いだった自分の意見です。

2010年1月27日水曜日

学術雑誌








学術雑誌:ネット購読料高騰に悲鳴 3年で2.5倍


これは確かに大きな問題ですね。急騰ですよ。

私は最近、これまで聞いたことない学術雑誌が多すぎると感じてます。
あんまり雑誌が細分化しても結局はそんなに読まないんですよね。たまたま自分の興味ある論文が載っていたので1報読んだっきりで、その後2報目を読むことのない新興雑誌って結構あると思いませんか? 読者の立場からすれば、そんな雑誌はいらないです。

しかし、著者(投稿者)としての立場ではどうでしょうか。ある意味、論文数が問われる世界でもあるので、雑誌数は増えるし、そのことを望んでいる研究者も多いのかもしれません(自分はそうではないですが)。

最初は聞いたことも興味もなくても、そんな新興雑誌から「review記事書いてよ」なんて依頼が来れば、ついその話にのってしまう。それまで聞いたことも投稿しようとも思わなかった新興雑誌が、急に「ひいきの雑誌」になってしまう。自分も、それを読んだ読者も「今度はここに論文投稿してもいいな」なんて思ったりして、ずるずると引きずり込まれる、自分はそんな気がします。

オンライン出版のみにすれば経費もあまりかからず、投稿は減らず、雑誌社は儲かるのだという意見も確かにあります。この悪循環を断ち切るべきか、あるいはどこかのステップが破綻するのが先か。もう、日本の大学は一致団結して、パッケージ購読をやめてもいいのかもしれません。

そんなことよりも、東大図書はnatureの古い論文をオンラインで読めるようにしてほしいです。

2010年1月26日火曜日

かずさ







かずさアカデミアパーク:経営が破綻 千葉県も出資


バイオ研究部門にとってはきびしい話ですが、
かずさDNA研究所にはぜひ頑張って欲しいです。
そして日本にもっと大学以外の研究施設が定着することを期待してます。


さて、そろそろ微小管の話をしなければ、、、、