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2012年3月6日火曜日

スピンドル微小管が曲がってしまう変異体 4

少し間があいてしまいましたが、skp1変異体でなぜスピンドルが曲がるのか?の続きです。
酵母では分裂期に核膜が崩壊しないのでスピンドル微小管は核内に形成されます。スピンドルの両端には中心体SPBがあります。分裂後期になると、スピンドルが伸長して、結果的に2つの中心体はどんどん離れていきます。この間、核膜は維持されたまま(closedなまま)ですが、しばらくすると、餅をびよーんと伸ばして二つに分けるときのように核が二つに分裂します。核膜が餅のように柔らかいからこそ、closed mitosisは達成できるのです。
これに対して、skp1変異体では、核の外形に沿うかたちで曲がったスピンドルが観察されます。
そこで今回は、
(2) 核膜の性質異常
がその原因だと想定してみましょう。
Skp1の変異体におけるスピンドルは普通に伸びているのだけれども、もし核膜に何らかの異常があって、核膜が硬かったとしたらどうでしょう?
核膜が伸びてくれない場合、スピンドルは核の中で曲がってしまうかもしれません。
後で図を描いておきます。
したがって、skp1変異体では、核膜の性質に異常がある可能性があるといえます。
続く!

2012年2月24日金曜日

酵母では分裂期でも核膜が崩壊しない

さて、スピンドル微小管が後期にどのように伸長していくのかというのを確認したところで、話をskp1変異体で見られる「曲がるスピンドル」に戻します。

以前、スピンドルが曲がる原因を考えた仮説(1)で述べたのは、もし後期Bのスピンドル微小管が安定化されたら、微小管がどんどんスライドして伸びていくはずなのに、実際には伸びるのではなく、曲がってしまう。これはなぜだ?という話でしたね。

ここで、核膜が重要な意味を持つ可能性が出てきました。
なぜ核膜が出てきたの?と思うかもしれませんが、、、、


核膜は、今まで書くと言いつつ書かなかった大切なものです。ここで書くことにします。


酵母は基本的にはヒトなどの高等生物と同様のメカニズムで細胞分裂をおこなうのですが、ひとつ大きな違いがあります。
高等生物は分裂期に核膜が崩壊する(Nuclear Envelope Break Down, NEBD)ので、open mitosis (核がopenになってmitosisをおこなうというイメージ)と呼ばれます。これに対して酵母を含めた下等真核細胞では、分裂期でも核膜が崩壊しないことが分かっています。これをclosed mitosis(核がclosedしたままでのmitosis)と呼びます。


いうまでもなく、核膜は核と細胞質とを隔てる重要な構造で、内膜と外膜の2重の膜構造になってます。核膜を突き抜けて物質を移動・輸送させることはできませんが、核膜には核膜孔と呼ばれる多くの穴が開いてます。小さい分子は受動的に核・細胞質間を行き来することができます。また、核膜には核膜孔複合体(Nuclear Pore Complex, NPC)が存在しており、大きな分子の能動的な輸送を可能にしています。

能動的・受動的というのは高校生くらいのかたには意味不明な難しい概念だと思いますので、今日のところはそこを無視してもOKです。大ざっぱに書くと、小さな分子はエネルギーを使わなくても核膜孔を通過できます(受動的)が、大きな分子は勝手に核膜孔を通過することはできません。

でも細胞が機能するためには、核の中に大きなタンパク質などを輸送する必要があるので、輸送制御因子Ran GTPaseと核内輸送因子Importinがエネルギーを投じて、大きなタンパク質を核内に輸送しています(能動的)。この概念は微小管形成にとても重要なところなので、必ずいつか戻ってきます。

さて、こうして核と細胞質は核膜によって隔てられているわけです。この核膜は、高等生物では分裂期に消失しますが、酵母など下等な真核生物では分裂期でも消失しません。

ということなので、当然、酵母のスピンドル微小管は核内に形成されることになります。

さて、いよいよ今度こそ、話をskp1に戻しましょう。
スピンドル微小管が曲がってしまうことと核膜には、どんな関係が考えられるでしょうか。







スピンドル微小管の伸長について

なぜskp1変異体ではスピンドルが曲がってしまうか、という話の続きです。

前回は、
(1)「 スピンドル微小管の制御異常」説
について書きました。
微小管結合タンパク質が過剰に存在していることでスピンドル構造の異常を引き起こしているせいではないのか?という説です。

次の説について書く前に、スピンドル微小管の伸長について書く必要があります。
少しskp1のことは脇に置いといて、野生型の分裂酵母で分裂後期がどのように進むかをみておきましょう。


以前書いたことですが、微小管のプラス端はダイナミックにチューブリンの重合・脱重合を繰り返しており、その性質を利用して染色体の動原体部分を捕まえます。ここが分裂中期です(下の図参照)。ここでは、この動原体と微小管をつなぐ微小管を動原体微小管(ktMTs)と呼ぶことにします。


そして、微小管による動原体の接着が完了すると、動原体と中心体(SPB)をつなぐ動原体微小管(ktMTs)が脱重合されることで染色体の分配が起きます(後期A)

(この後期Aの過程までは以前書きました。しかし当時、その後の後期Bのことを書くのを忘れてしまいました。今日はそこを書きます。)

染色体は後期Aにおける動原体微小管の脱重合によってSPB(中心体)まで分離しましたが、その後、SPBのあいだをつなぐ極間微小管(ipMTs)のオーバーラップ領域が互いに反対方向にスライドし、同時にそれらの微小管のプラス端ではチューブリン2量体の重合が起きているので、オーバーラップ領域がなくなることはありません。

このようにして、極間微小管が伸長することでSPBがさらに分離していき、確実に2個の細胞に染色体を分け与えます。この時期が後期B (anaphase B)です。


それでは、話をskp1変異体で見られる「曲がるスピンドル」に戻しましょう。

前回、スピンドルが曲がる原因を考えた仮説(1)において、もし微小管が安定化されただけなら、スピンドルの長さが増しても良い気がする、と書きました。これは、もし後期Bのスピンドル微小管が安定化されたら、微小管がどんどんスライドして伸びていくのではないか、という推測です。

しかし、実際には伸びるのではなく、曲がってしまいます。そこで、次回は別の仮説を考えることにします。



2012年2月23日木曜日

スピンドル微小管が曲がってしまう変異体 3

タンパク質分解に関わるユビキチンリガーゼE3であるSCF複合体。
その構成因子Skp1の変異体ではスピンドルが曲がることが知られていました(Lehmann and Toda, 2004, FEBS Lett. 566:77-82)。


それでは、スピンドルが曲がるという異常な状態はどのようにして作られるのでしょうか?

(1)「 スピンドル微小管の制御異常」説

私が当時最初に思いついたのが、スピンドル微小管の制御に問題が生じたという説でした。
もちろん同じことを考えた人は多いはずです。

例えば、スピンドル微小管をまっすぐ伸長させるためのタンパク質(それが何なのかはおいといて)の活性が異常になり、スピンドルが曲がってしまう可能性。あるいは、スピンドル微小管が異常に安定化されてしまった可能性。

この現象がSkp1の変異体で起きたメカニズムを具体的にイメージすると、本来ならSkp1/SCFの機能によって分解されるべき「ある微小管結合タンパク質」がskp1変異体で分解されなくなったため、過剰に細胞内に存在するそのタンパク質が微小管の異常な制御を引き起こしてしまったと考えられます。

この説は、微小管ダイナミクスの観点からskp1変異体の症状(表現型)を説明しています。少し問題があるのは、微小管がもし単純に安定化されてしまうだけなら、微小管は「野生型よりも長い」とか「野生型より太い」とか、そういう症状が見られてもよかったはずです。

しかし実際に見られたのは、「野生型と違って曲がる」という表現型ですから、分解されなくなったタンパク質が蓄積することで「スピンドルが曲がる」ためには、なにかそういう曲率を生み出すような構造のタンパク質ということになります。少し不自然なところはあります。

次は、スピンドルが細胞内でどのような状態で存在しているか、細胞学的な観点から可能性を考えてみます。

スピンドル微小管が曲がってしまう変異体 2

さて、われわれが研究成果として発表した「スピンドル微小管が曲がってしまう変異体」の続きです。時間の余裕が少しだけできたのでこのスキに書き進めたいと思います。

ことの始まりは2002年にさかのぼります。私がポスドク研究者としてロンドンに留学したときのことです。留学先の登田先生の研究室では、微小管の研究とタンパク質分解の研究を両立して行なってました。私はそこで念願かなって初めて微小管の研究に携わったわけですが、研究室のある大学院生はタンパク質分解を司るSCF複合体の実験をしていました。

彼女はSCFについて、タンパク質分解の観点からとてもいい仕事をし、論文になっています。そしてその論文とは別に、スピンドル微小管を研究し始めたばかりの私が特に面白いと感じたのが、前回書いた、曲がる微小管の謎でした。

2012年2月6日月曜日

放射線の疑問

放射性同位元素の実習を終えて、ふと基本的な疑問に立ち返って見る。

なんとなく、放射線被ばくはガンの原因となると言われているが、これは正しいのだろうか? 放射線で遺伝子に突然変異が入ると聞くが、遺伝病として代々遺伝していく可能性が高いということだろうか?

放射線でDNA損傷が生じることと、病気、特にガンと遺伝病の発症率は関連しているのだろうか?

どうもアバウトに習って、アバウトに覚えているだけのような気がします。20年前大学の学部の講義できいただけならそれで良かったですが、今では具体的な証拠があるのかとても気になります。

時間が許す限り、この件を自分なりに調べてまとめてみようと思います。




2012年2月3日金曜日

スピンドル微小管が曲がってしまう変異体

久しぶりに微小管の話をしようと思います。最近我々の研究室が出した論文についてです。

本当は、自分たちの微小管研究について書きたいことはあります。しかしまだ論文になっていないことを書くわけにはいかないので、論文を出す機会を待っていました。

そして今回、私が東大生化に来て以来学生が実験を担当したプロジェクトとして最初の微小管に関する論文が出ました。

そのためにはタンパク質分解のことから話す必要があります。

細胞の中ではタンパク質を分解する機構があります。時には不要なタンパク質を分解してアミノ酸に戻し、新しいタンパク質に再利用する役割があります。またある時は、特定のタンパク質を分解することで細胞周期が進行したりと、細胞内の様々な場面でタンパク質分解は重要な役割を担っています。

中でも、分解するべきタンパク質にユビキチンと呼ばれる目印をつけて、プロテアソームと呼ばれる分解酵素複合体によって分解する「ユビキチン・プロテアソーム」のシステムは有名で、ユビキチン化されたタンパク質を分解することで細胞周期か進行したり細胞内の諸現象を引き起こしています。

SCF複合体は、平たく言えば、そのような分解されるべきタンパク質にユビキチン分子をくっつける役割をになってます。

そのSCFの変異体では、真っ直ぐなはずのスピンドル微小管が、なぜか曲がってしまうのです。

タンパク質分解と曲がるスピンドル、当時の私には、この一見するとまったく関連のなさそうな2つの現象をつなぐ謎がとても面白いと感じました。

なぜこのSCF変異体ではスピンドル微小管が曲がってしまうのでしょうか?

その原因としてはいろいろな可能性が考えられるのですが、次回はそこから書きます。

あと、なぜskp1の研究を始めたか、については一通り話が終わってきた最後にまとめることにします。

2012年2月2日木曜日

放射性同位元素を用いた学生実習2

大学生が放射性同位元素(RI)を使用するためには、講義と実習を受けて、放射線取扱者として公式に認定されなければいけません。

これまで放射性同位元素というと、学生のあいだでも単に怖いので触りたくないとか、あるいはあまり興味がないという意見が多かったように思います。ですから放射線に関する講義とかも、興味がないけど認定されるために聴講する、という程度のひとが多かったのではないでしょうか?

しかし、昨年3月の震災によって生じた原発事故と放射能漏れの問題があり、震災以降は放射線のことを実生活に結びつけて真剣に考える人や、放射線に興味を持つ人が増えてきたように思います。と同時に、放射線に対して過剰反応を起こす人も出ているため(周囲の学生にはいないようですが)、やっぱり正しい知識と感覚をもつことが大切だという王道の結論になります。実際の講義では放射線生物学を専門とする先生が、現在の放射線量が我々の生活に与える影響はどれくらいなのか、ということも交えてわかりやすく解説してくれました。

個人的な希望ですが、もっと小中高校とかで基礎的な理科教育がなされていれば良かったのに、と思います。理系万歳とは言いません。私も学校では文系科目のほうが好きでしたし理科はあまり得意ではありませんでした。この震災・事故をきっかけとして、放射線教育、理工系の教育を見直していこうという動きが出て欲しいなと思います。

事故があったからというわけではないでしょうが、前述の講師いわく、今後は学校でも「霧箱」という、簡単な放射線に関する実験が行われるようになったそうです。放射線を「見る」ことができる実験です。今回も先生方が霧箱を見せてくださいましたが、確かに見えないものを議論するより、見せることで関心を高めるのは中学高校の授業では重要だと思います。このような実験をとおして、理系の人が増えてくれればいい、という個人的希望を持ちました。

2012年2月1日水曜日

放射性同位元素を用いた学生実習

私は今年度、放射性同位元素を用いた学生実習の指導を担当しています。

放射性同位元素というと、使ったことのない人にとっては実にものものしい、危険な物という雰囲気が漂いませんか。

放射性同位元素、またはラジオアイソトープ、アイソトープ、略してRIは確かに危険な物質です。しかし、正しくルールを守って使えば、非常に有効な生物実験の材料として使うことができます。

例えば、DNA(デオキシリボ核酸)を構成する塩基の中に放射能をもつリン原子を取り込ませて、DNAを「放射性標識」する。このDNAが発する放射線が目印となり、このDNAがその後どこに移動していくのかを追跡するトレーサー実験が有名です。

私がこのRIを用いたトレーサー実験のことを知ったのは大学2年の時でした。

放射能とか放射線とか、そんな恐ろしいものは自分に縁がないだろう、とたかをくくってました。まさか大学院でRIをたくさん使って実験することになるとは、この時は夢にも思いませんでした。

大学院時代は、DNAの検出(サザンブロット解析)、RNAの検出(ノーザンブロット解析)、RNAの標識とタンパク質のリン酸化の検出と、あの手この手でRIを使いました。

続きはまたあとで

染色体ワークショップ2

というわけで染色体ワークショップが終わって数日経ったところで、どんな会だったのか個人的イメージを思い出してみることにします。

私はあまり気がつかなかったのですが、微小管についての話とか微小管が大きく絡む話が多かった、という意見を複数聞きました。私にとって微小管は違和感ないですが、あまり微小管と関連のない染色体分野の方がそう思っていたかもしれません。

昨年、理研の平野達也先生が、今回のワークショップのオーガナイザーとなられるにあたり、染色体ワークショップにも新しい試みがあると良いのでは、というお話をされていたのが印象的でした。微小管も何かそういう新しい傾向の一つとして定着すると良いのではないでしょうか。

私は最近は細胞周期と微小管の研究に特に重点を置いて進めて行こうと思っているので、直接染色体ではありません。染色体ワークショップのように、微小管、中心体と細胞分裂の会合もあれば良いなぁ、と感じます。無いなら自分でやれよ、ということになりますが、いつか自分が独立してラボを持つような日が来たらチャレンジしてみたいです。

2012年1月27日金曜日

染色体ワークショップ 仙台

久しぶりの更新です。
水曜日から染色体ワークショップに参加のため、仙台に来ています。

この会は毎年とても活気があり、刺激を受けます。今回も参加して良かったです。

先程ミーティングが終わったところで、空き時間を利用して塩釜神社に来ました。

雪がすごい。。




雪が激しくなってきたので撤収。

次回仙台に来るときは東北大学の田中耕三先生の研究室を是非表敬訪問したいです。

微小管の話ですが、次回、論文のことを書きたいと思います。