それではいくつか、スピンドルチェックボイント機構に関する疑問点を挙げてみましょう。
(1)張力がかかっていれば、本当にすべての不具合は解消されたことになるでしょうか。微小管による動原体間の張力はかかっているのに結合様式が不適切だという状況はありうるでしょうか? 前回の図のMerotelic結合を例として考えてみてください。
(2)スピンドルチェックボイント機構は、例えばヒトでは23対ある染色体のどれかひとつでも微小管との接着に問題があれば活性化して細胞周期を停止させます。たった1カ所の異常でも効率的に細胞周期を停止させるのはどのような分子機構によるものなのでしょうか?
(3)接着も張力もOKのとき、スピンドルチェックボイントはどのように解除されるのでしょうか?
(4)接着に異常があってチェックボイントが働いたあと、もし微小管がなかなか形成されずに、いつまでたっても不具合が解消されなかった場合、細胞は、あるいはチェックボイントはどうなるのでしょうか。
想像上の話ですが、細胞分裂の各ステップがもし完璧に100%理想的に起きてくれれば、チェックポイント機構は必要ないのかもしれません。先日書いたとおり、酵母(分裂酵母や出芽酵母)では、スピンドルチェックポイントの構成因子であるMad2やBub1の遺伝子を細胞から除去(ノックアウト)しても、細胞が通常の増殖をおこなう上ではまったく影響は見られません。(ただし、微小管重合阻害剤をかけると、それらの遺伝子の変異体では微小管の異常を感知することができずに染色体分配異常を起こして細胞死に至ります。)
しかしながら、最初から100%うまくいくということは高等生物にはあまり期待できません。例えば、ヒトの細胞ではMad2やBubR1は必須の因子です。高等生物では酵母よりも細胞分裂が「難しい」ということなのでしょうか。それでも、ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)においては、酵母と同様にチェックポイントは生育に必須ではないという結果が出ています。ハエは細胞分裂が簡単だといえるでしょうか??
酵母からヒトに至る細胞分裂様式の進化を考えるうえで、ここはひとつ大きなポイントだと思います。まだまだスピンドルチェックポイントの世界は奥が深く、分からないことが多く残されています。
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