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2010年8月30日月曜日

二重らせん構造の落とし穴


EMBLを訪ねるのは今回が初めてではなく、前回の訪問から2年経っていないのですが、今回は微小管学会が開催されたのは初めてであるということ、それから学会の会場が新しく作られたATCトレーニングセンターと呼ばれる、鳴り物入りで建てられた建物でおこなわれるというのが今回初めてのことです。

なぜ鳴り物入りか、、、それはドイツの技術とデザイン性の粋を集めて建てられた(?)DNA二重らせん形の展示場のためです。バチカン美術館みたいです。名前がATC (advanced training centre)なので、こじつけで名前にGermanyとかを入れれば、ATCGとかになり、よりDNAっぽくなると思うのですが。
外観は、特に敢えてDNAの二重らせんを想起させるものではない、というよりも車の立体駐車場のイメージです。
しかし内部は、建物の壁に沿ってらせん状に廊下が巻いてあり、それが通常の建物の1階から8,9階相当?のところまでずっと続いていく奇抜な建築です。通常の、と言ったのは、この建物はいわゆる「階」という概念がなく、緩やかな坂であるらせんに沿って小さな部屋がずっと並んでいるからです。
とてもアーティスティック、すばらしいでしょう! このらせん状の廊下にポスターを貼り、研究発表するわけです。上の写真(の右上端)をよく見ると、確かにポスター板とそれを眺めている人達が見えますね。

通常ポスター発表は、だだっ広い展示場か会議室か、そんなところでやります。多くの人数を半分に分けて、半分ずつおこなっていくものです。例えば100人がポスター発表する場合、ポスター番号が偶数の50人は第1日に発表、奇数の50人は第2日、という具合にして、ひとつの部屋を一日交替で使うことになります。

しかし、このEMBLのATCの場合、奇数組と偶数組で、ポスターを貼る「廊下が違う」のです。

廊下が違うといって、なんのことか分かっていただけるでしょうか。うまく説明できませんが、DNAは二重らせんなので、らせん状の廊下は実は2本あるのです。つまり、写真で見られる隣り合う上下の廊下は別の廊下であり(ワトソン坂とクリック坂とでも呼べばいいのか?)、もともと1階ではそれぞれ別の入り口から登っていくことになります。
このままだと、もしワトソン坂の上のほうからクリック坂の上のほうに移動したいと思っても、一度1階に降りてからまた登ることになり、極めて理不尽な構造になります。

そこで、ところどころ、ワトソン坂とクリック坂がATやCGの塩基対のように繋がっていて、2つの坂を結ぶ「連絡通路」になっているわけです。これで問題解決です。
ところが、これは高所恐怖症の人には受け入れられない構造です。

実際、もしこれがイギリスなら、いつか崩落するぞって人々がささやく悪口が聞こえてくるでしょう。

EMBLはドイツですから建築技術は信じよう、でも鉄道大国スイスでも列車事故は起きるということを付け加えておこう。いや崩落する可能性があるかどうかにかかわらず、高いところは怖いって。床が半透明の曇りガラスなのがまたイヤなムードをかき立てます。無色透明ならもうそれは拷問でしかないですが。

この連絡通路が完成したとき、建築業者の人達が大勢この連絡通路に立ち、自らその安全性を立証してアピールしたそうです。それで崩落したら大惨事ですが。これはいわゆる、イナバ物置スタイルの立証、あるいは菅直人氏、カイワレ大根を食すといったところです。そういえば、この微小管学会の旅行中に首相が鳩山氏から菅氏に変わりました。また変わるのでしょうか?

というわけで、この建物、ポスター発表のしにくさでは群を抜いてすごい、実に不評な建物でした。でも「こういう建物を建てようと最初は半分冗談で言ってたけど、本気になってほんとに建ててしまう、で実際建ててみたら問題もあることが分かったけど、でも面白いよね。」というムードこそが欧州の雰囲気、欧州の懐の深さです。欧州のサイエンスは表面上それほどガツガツしていないのに、仕事の中身は奥が深いっていうのは、こういうことろに由来するのかもしれません。

最大の問題点は、事実上トイレが地下にしかない点です。これはいただけなかった。


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