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2013年6月11日火曜日

4月に異動しました

久しぶりの更新です。

私事で恐縮ですが、2013年4月に、早稲田大学・先進理工学部・生命医科学科(大学院先進理工学研究科・生命医科学専攻)の准教授に着任し、研究室をもつことになりました。

私が助教をつとめていた前所属である東大・院理・生物化学専攻の先生方ならびに生化事務の皆様には大変お世話になりました。皆様のご支援のおかげで独立研究室をもつことができました。特に、2011〜2012年度の生化専攻長であった深田吉孝教授飯野雄一教授のご支援には心から感謝申し上げます。

また、早稲田大学・生命医科学科の先生方は本当に素晴らしく、若輩の新参者である私を常にエンカレッジして支援してくださる、早稲田らしさに溢れる素敵なところです。

生命医科学科自体もまだ歴史は浅い新しい学科ですが、医理工連携を実践するとてもユニークな学科です。日本ひろしといえども、これだけ整った研究・教育環境を実現するのは結構難しいことだと思います。このようなところにラボを構えるというのは、本当に恵まれています。

(早稲田・生命医科の学生さん:特に学部生の皆さんは、これだけ恵まれた大学施設があることを誇りにして、堂々と研究に臨んでほしいと思います)

当研究室は4月に立ち上がったばかりですが、研究室にはすでに学部4年生が5人配属されました。この5人と博士課程の学生1名+助手1名で研究に励んでおります。まだまだ至らないことも多く、皆様のご支援のおかげで活動できている現状ですが、生命医科学科の知名度・存在感を上げていけるように、可能な限り上を目指していきたいと思います。

研究者になる自信など少しもなかった自分を支えて教育してくださったのは、東大時代の山本正幸先生(かずさDNA研究所所長)・渡邊嘉典先生(東大分生研)、ならびにCancer Research UKの登田隆先生です。素晴らしき先生方に感謝いたします。

おかげさまで、論文も着実に増えてきております。

これはひとえに共著者、特に筆頭著者である大学院生・研究員の頑張りによるものです。彼らの業績を称えるためにも、本サイトで順次内容を紹介していきたいと思います。

昨年(2012年)4月には、文部科学大臣表彰・若手研究者賞をいただきました。微小管と細胞分裂の研究を今後もすすめていきたいと思います。

佐藤政充

2012年3月6日火曜日

スピンドル微小管が曲がってしまう変異体 4

少し間があいてしまいましたが、skp1変異体でなぜスピンドルが曲がるのか?の続きです。
酵母では分裂期に核膜が崩壊しないのでスピンドル微小管は核内に形成されます。スピンドルの両端には中心体SPBがあります。分裂後期になると、スピンドルが伸長して、結果的に2つの中心体はどんどん離れていきます。この間、核膜は維持されたまま(closedなまま)ですが、しばらくすると、餅をびよーんと伸ばして二つに分けるときのように核が二つに分裂します。核膜が餅のように柔らかいからこそ、closed mitosisは達成できるのです。
これに対して、skp1変異体では、核の外形に沿うかたちで曲がったスピンドルが観察されます。
そこで今回は、
(2) 核膜の性質異常
がその原因だと想定してみましょう。
Skp1の変異体におけるスピンドルは普通に伸びているのだけれども、もし核膜に何らかの異常があって、核膜が硬かったとしたらどうでしょう?
核膜が伸びてくれない場合、スピンドルは核の中で曲がってしまうかもしれません。
後で図を描いておきます。
したがって、skp1変異体では、核膜の性質に異常がある可能性があるといえます。
続く!

2012年2月24日金曜日

酵母では分裂期でも核膜が崩壊しない

さて、スピンドル微小管が後期にどのように伸長していくのかというのを確認したところで、話をskp1変異体で見られる「曲がるスピンドル」に戻します。

以前、スピンドルが曲がる原因を考えた仮説(1)で述べたのは、もし後期Bのスピンドル微小管が安定化されたら、微小管がどんどんスライドして伸びていくはずなのに、実際には伸びるのではなく、曲がってしまう。これはなぜだ?という話でしたね。

ここで、核膜が重要な意味を持つ可能性が出てきました。
なぜ核膜が出てきたの?と思うかもしれませんが、、、、


核膜は、今まで書くと言いつつ書かなかった大切なものです。ここで書くことにします。


酵母は基本的にはヒトなどの高等生物と同様のメカニズムで細胞分裂をおこなうのですが、ひとつ大きな違いがあります。
高等生物は分裂期に核膜が崩壊する(Nuclear Envelope Break Down, NEBD)ので、open mitosis (核がopenになってmitosisをおこなうというイメージ)と呼ばれます。これに対して酵母を含めた下等真核細胞では、分裂期でも核膜が崩壊しないことが分かっています。これをclosed mitosis(核がclosedしたままでのmitosis)と呼びます。


いうまでもなく、核膜は核と細胞質とを隔てる重要な構造で、内膜と外膜の2重の膜構造になってます。核膜を突き抜けて物質を移動・輸送させることはできませんが、核膜には核膜孔と呼ばれる多くの穴が開いてます。小さい分子は受動的に核・細胞質間を行き来することができます。また、核膜には核膜孔複合体(Nuclear Pore Complex, NPC)が存在しており、大きな分子の能動的な輸送を可能にしています。

能動的・受動的というのは高校生くらいのかたには意味不明な難しい概念だと思いますので、今日のところはそこを無視してもOKです。大ざっぱに書くと、小さな分子はエネルギーを使わなくても核膜孔を通過できます(受動的)が、大きな分子は勝手に核膜孔を通過することはできません。

でも細胞が機能するためには、核の中に大きなタンパク質などを輸送する必要があるので、輸送制御因子Ran GTPaseと核内輸送因子Importinがエネルギーを投じて、大きなタンパク質を核内に輸送しています(能動的)。この概念は微小管形成にとても重要なところなので、必ずいつか戻ってきます。

さて、こうして核と細胞質は核膜によって隔てられているわけです。この核膜は、高等生物では分裂期に消失しますが、酵母など下等な真核生物では分裂期でも消失しません。

ということなので、当然、酵母のスピンドル微小管は核内に形成されることになります。

さて、いよいよ今度こそ、話をskp1に戻しましょう。
スピンドル微小管が曲がってしまうことと核膜には、どんな関係が考えられるでしょうか。







スピンドル微小管の伸長について

なぜskp1変異体ではスピンドルが曲がってしまうか、という話の続きです。

前回は、
(1)「 スピンドル微小管の制御異常」説
について書きました。
微小管結合タンパク質が過剰に存在していることでスピンドル構造の異常を引き起こしているせいではないのか?という説です。

次の説について書く前に、スピンドル微小管の伸長について書く必要があります。
少しskp1のことは脇に置いといて、野生型の分裂酵母で分裂後期がどのように進むかをみておきましょう。


以前書いたことですが、微小管のプラス端はダイナミックにチューブリンの重合・脱重合を繰り返しており、その性質を利用して染色体の動原体部分を捕まえます。ここが分裂中期です(下の図参照)。ここでは、この動原体と微小管をつなぐ微小管を動原体微小管(ktMTs)と呼ぶことにします。


そして、微小管による動原体の接着が完了すると、動原体と中心体(SPB)をつなぐ動原体微小管(ktMTs)が脱重合されることで染色体の分配が起きます(後期A)

(この後期Aの過程までは以前書きました。しかし当時、その後の後期Bのことを書くのを忘れてしまいました。今日はそこを書きます。)

染色体は後期Aにおける動原体微小管の脱重合によってSPB(中心体)まで分離しましたが、その後、SPBのあいだをつなぐ極間微小管(ipMTs)のオーバーラップ領域が互いに反対方向にスライドし、同時にそれらの微小管のプラス端ではチューブリン2量体の重合が起きているので、オーバーラップ領域がなくなることはありません。

このようにして、極間微小管が伸長することでSPBがさらに分離していき、確実に2個の細胞に染色体を分け与えます。この時期が後期B (anaphase B)です。


それでは、話をskp1変異体で見られる「曲がるスピンドル」に戻しましょう。

前回、スピンドルが曲がる原因を考えた仮説(1)において、もし微小管が安定化されただけなら、スピンドルの長さが増しても良い気がする、と書きました。これは、もし後期Bのスピンドル微小管が安定化されたら、微小管がどんどんスライドして伸びていくのではないか、という推測です。

しかし、実際には伸びるのではなく、曲がってしまいます。そこで、次回は別の仮説を考えることにします。



2012年2月23日木曜日

スピンドル微小管が曲がってしまう変異体 3

タンパク質分解に関わるユビキチンリガーゼE3であるSCF複合体。
その構成因子Skp1の変異体ではスピンドルが曲がることが知られていました(Lehmann and Toda, 2004, FEBS Lett. 566:77-82)。


それでは、スピンドルが曲がるという異常な状態はどのようにして作られるのでしょうか?

(1)「 スピンドル微小管の制御異常」説

私が当時最初に思いついたのが、スピンドル微小管の制御に問題が生じたという説でした。
もちろん同じことを考えた人は多いはずです。

例えば、スピンドル微小管をまっすぐ伸長させるためのタンパク質(それが何なのかはおいといて)の活性が異常になり、スピンドルが曲がってしまう可能性。あるいは、スピンドル微小管が異常に安定化されてしまった可能性。

この現象がSkp1の変異体で起きたメカニズムを具体的にイメージすると、本来ならSkp1/SCFの機能によって分解されるべき「ある微小管結合タンパク質」がskp1変異体で分解されなくなったため、過剰に細胞内に存在するそのタンパク質が微小管の異常な制御を引き起こしてしまったと考えられます。

この説は、微小管ダイナミクスの観点からskp1変異体の症状(表現型)を説明しています。少し問題があるのは、微小管がもし単純に安定化されてしまうだけなら、微小管は「野生型よりも長い」とか「野生型より太い」とか、そういう症状が見られてもよかったはずです。

しかし実際に見られたのは、「野生型と違って曲がる」という表現型ですから、分解されなくなったタンパク質が蓄積することで「スピンドルが曲がる」ためには、なにかそういう曲率を生み出すような構造のタンパク質ということになります。少し不自然なところはあります。

次は、スピンドルが細胞内でどのような状態で存在しているか、細胞学的な観点から可能性を考えてみます。

スピンドル微小管が曲がってしまう変異体 2

さて、われわれが研究成果として発表した「スピンドル微小管が曲がってしまう変異体」の続きです。時間の余裕が少しだけできたのでこのスキに書き進めたいと思います。

ことの始まりは2002年にさかのぼります。私がポスドク研究者としてロンドンに留学したときのことです。留学先の登田先生の研究室では、微小管の研究とタンパク質分解の研究を両立して行なってました。私はそこで念願かなって初めて微小管の研究に携わったわけですが、研究室のある大学院生はタンパク質分解を司るSCF複合体の実験をしていました。

彼女はSCFについて、タンパク質分解の観点からとてもいい仕事をし、論文になっています。そしてその論文とは別に、スピンドル微小管を研究し始めたばかりの私が特に面白いと感じたのが、前回書いた、曲がる微小管の謎でした。

2012年2月6日月曜日

放射線の疑問

放射性同位元素の実習を終えて、ふと基本的な疑問に立ち返って見る。

なんとなく、放射線被ばくはガンの原因となると言われているが、これは正しいのだろうか? 放射線で遺伝子に突然変異が入ると聞くが、遺伝病として代々遺伝していく可能性が高いということだろうか?

放射線でDNA損傷が生じることと、病気、特にガンと遺伝病の発症率は関連しているのだろうか?

どうもアバウトに習って、アバウトに覚えているだけのような気がします。20年前大学の学部の講義できいただけならそれで良かったですが、今では具体的な証拠があるのかとても気になります。

時間が許す限り、この件を自分なりに調べてまとめてみようと思います。