タンパク質分解に関わるユビキチンリガーゼE3であるSCF複合体。
その構成因子Skp1の変異体ではスピンドルが曲がることが知られていました(Lehmann and Toda, 2004, FEBS Lett. 566:77-82)。
それでは、スピンドルが曲がるという異常な状態はどのようにして作られるのでしょうか?
(1)「 スピンドル微小管の制御異常」説
私が当時最初に思いついたのが、スピンドル微小管の制御に問題が生じたという説でした。
もちろん同じことを考えた人は多いはずです。
例えば、スピンドル微小管をまっすぐ伸長させるためのタンパク質(それが何なのかはおいといて)の活性が異常になり、スピンドルが曲がってしまう可能性。あるいは、スピンドル微小管が異常に安定化されてしまった可能性。
この現象がSkp1の変異体で起きたメカニズムを具体的にイメージすると、本来ならSkp1/SCFの機能によって分解されるべき「ある微小管結合タンパク質」がskp1変異体で分解されなくなったため、過剰に細胞内に存在するそのタンパク質が微小管の異常な制御を引き起こしてしまったと考えられます。
この説は、微小管ダイナミクスの観点からskp1変異体の症状(表現型)を説明しています。少し問題があるのは、微小管がもし単純に安定化されてしまうだけなら、微小管は「野生型よりも長い」とか「野生型より太い」とか、そういう症状が見られてもよかったはずです。
しかし実際に見られたのは、「野生型と違って曲がる」という表現型ですから、分解されなくなったタンパク質が蓄積することで「スピンドルが曲がる」ためには、なにかそういう曲率を生み出すような構造のタンパク質ということになります。少し不自然なところはあります。
次は、スピンドルが細胞内でどのような状態で存在しているか、細胞学的な観点から可能性を考えてみます。
Masamistu Satoによる微小管研究の過去、現在と未来について話す、というのは大げさで、単に日常的に思いついたことを忘れないようにメモしていくつもりです。
2012年2月23日木曜日
スピンドル微小管が曲がってしまう変異体 2
さて、われわれが研究成果として発表した「スピンドル微小管が曲がってしまう変異体」の続きです。時間の余裕が少しだけできたのでこのスキに書き進めたいと思います。
ことの始まりは2002年にさかのぼります。私がポスドク研究者としてロンドンに留学したときのことです。留学先の登田先生の研究室では、微小管の研究とタンパク質分解の研究を両立して行なってました。私はそこで念願かなって初めて微小管の研究に携わったわけですが、研究室のある大学院生はタンパク質分解を司るSCF複合体の実験をしていました。
彼女はSCFについて、タンパク質分解の観点からとてもいい仕事をし、論文になっています。そしてその論文とは別に、スピンドル微小管を研究し始めたばかりの私が特に面白いと感じたのが、前回書いた、曲がる微小管の謎でした。
ことの始まりは2002年にさかのぼります。私がポスドク研究者としてロンドンに留学したときのことです。留学先の登田先生の研究室では、微小管の研究とタンパク質分解の研究を両立して行なってました。私はそこで念願かなって初めて微小管の研究に携わったわけですが、研究室のある大学院生はタンパク質分解を司るSCF複合体の実験をしていました。
彼女はSCFについて、タンパク質分解の観点からとてもいい仕事をし、論文になっています。そしてその論文とは別に、スピンドル微小管を研究し始めたばかりの私が特に面白いと感じたのが、前回書いた、曲がる微小管の謎でした。
2012年2月6日月曜日
放射線の疑問
放射性同位元素の実習を終えて、ふと基本的な疑問に立ち返って見る。
なんとなく、放射線被ばくはガンの原因となると言われているが、これは正しいのだろうか? 放射線で遺伝子に突然変異が入ると聞くが、遺伝病として代々遺伝していく可能性が高いということだろうか?
放射線でDNA損傷が生じることと、病気、特にガンと遺伝病の発症率は関連しているのだろうか?
どうもアバウトに習って、アバウトに覚えているだけのような気がします。20年前大学の学部の講義できいただけならそれで良かったですが、今では具体的な証拠があるのかとても気になります。
時間が許す限り、この件を自分なりに調べてまとめてみようと思います。
なんとなく、放射線被ばくはガンの原因となると言われているが、これは正しいのだろうか? 放射線で遺伝子に突然変異が入ると聞くが、遺伝病として代々遺伝していく可能性が高いということだろうか?
放射線でDNA損傷が生じることと、病気、特にガンと遺伝病の発症率は関連しているのだろうか?
どうもアバウトに習って、アバウトに覚えているだけのような気がします。20年前大学の学部の講義できいただけならそれで良かったですが、今では具体的な証拠があるのかとても気になります。
時間が許す限り、この件を自分なりに調べてまとめてみようと思います。
2012年2月3日金曜日
スピンドル微小管が曲がってしまう変異体
久しぶりに微小管の話をしようと思います。最近我々の研究室が出した論文についてです。
本当は、自分たちの微小管研究について書きたいことはあります。しかしまだ論文になっていないことを書くわけにはいかないので、論文を出す機会を待っていました。
そして今回、私が東大生化に来て以来学生が実験を担当したプロジェクトとして最初の微小管に関する論文が出ました。
そのためにはタンパク質分解のことから話す必要があります。
細胞の中ではタンパク質を分解する機構があります。時には不要なタンパク質を分解してアミノ酸に戻し、新しいタンパク質に再利用する役割があります。またある時は、特定のタンパク質を分解することで細胞周期が進行したりと、細胞内の様々な場面でタンパク質分解は重要な役割を担っています。
中でも、分解するべきタンパク質にユビキチンと呼ばれる目印をつけて、プロテアソームと呼ばれる分解酵素複合体によって分解する「ユビキチン・プロテアソーム」のシステムは有名で、ユビキチン化されたタンパク質を分解することで細胞周期か進行したり細胞内の諸現象を引き起こしています。
SCF複合体は、平たく言えば、そのような分解されるべきタンパク質にユビキチン分子をくっつける役割をになってます。
そのSCFの変異体では、真っ直ぐなはずのスピンドル微小管が、なぜか曲がってしまうのです。
タンパク質分解と曲がるスピンドル、当時の私には、この一見するとまったく関連のなさそうな2つの現象をつなぐ謎がとても面白いと感じました。
なぜこのSCF変異体ではスピンドル微小管が曲がってしまうのでしょうか?
その原因としてはいろいろな可能性が考えられるのですが、次回はそこから書きます。
あと、なぜskp1の研究を始めたか、については一通り話が終わってきた最後にまとめることにします。
本当は、自分たちの微小管研究について書きたいことはあります。しかしまだ論文になっていないことを書くわけにはいかないので、論文を出す機会を待っていました。
そして今回、私が東大生化に来て以来学生が実験を担当したプロジェクトとして最初の微小管に関する論文が出ました。
そのためにはタンパク質分解のことから話す必要があります。
細胞の中ではタンパク質を分解する機構があります。時には不要なタンパク質を分解してアミノ酸に戻し、新しいタンパク質に再利用する役割があります。またある時は、特定のタンパク質を分解することで細胞周期が進行したりと、細胞内の様々な場面でタンパク質分解は重要な役割を担っています。
中でも、分解するべきタンパク質にユビキチンと呼ばれる目印をつけて、プロテアソームと呼ばれる分解酵素複合体によって分解する「ユビキチン・プロテアソーム」のシステムは有名で、ユビキチン化されたタンパク質を分解することで細胞周期か進行したり細胞内の諸現象を引き起こしています。
SCF複合体は、平たく言えば、そのような分解されるべきタンパク質にユビキチン分子をくっつける役割をになってます。
そのSCFの変異体では、真っ直ぐなはずのスピンドル微小管が、なぜか曲がってしまうのです。
タンパク質分解と曲がるスピンドル、当時の私には、この一見するとまったく関連のなさそうな2つの現象をつなぐ謎がとても面白いと感じました。
なぜこのSCF変異体ではスピンドル微小管が曲がってしまうのでしょうか?
その原因としてはいろいろな可能性が考えられるのですが、次回はそこから書きます。
あと、なぜskp1の研究を始めたか、については一通り話が終わってきた最後にまとめることにします。
2012年2月2日木曜日
放射性同位元素を用いた学生実習2
大学生が放射性同位元素(RI)を使用するためには、講義と実習を受けて、放射線取扱者として公式に認定されなければいけません。
これまで放射性同位元素というと、学生のあいだでも単に怖いので触りたくないとか、あるいはあまり興味がないという意見が多かったように思います。ですから放射線に関する講義とかも、興味がないけど認定されるために聴講する、という程度のひとが多かったのではないでしょうか?
しかし、昨年3月の震災によって生じた原発事故と放射能漏れの問題があり、震災以降は放射線のことを実生活に結びつけて真剣に考える人や、放射線に興味を持つ人が増えてきたように思います。と同時に、放射線に対して過剰反応を起こす人も出ているため(周囲の学生にはいないようですが)、やっぱり正しい知識と感覚をもつことが大切だという王道の結論になります。実際の講義では放射線生物学を専門とする先生が、現在の放射線量が我々の生活に与える影響はどれくらいなのか、ということも交えてわかりやすく解説してくれました。
個人的な希望ですが、もっと小中高校とかで基礎的な理科教育がなされていれば良かったのに、と思います。理系万歳とは言いません。私も学校では文系科目のほうが好きでしたし理科はあまり得意ではありませんでした。この震災・事故をきっかけとして、放射線教育、理工系の教育を見直していこうという動きが出て欲しいなと思います。
事故があったからというわけではないでしょうが、前述の講師いわく、今後は学校でも「霧箱」という、簡単な放射線に関する実験が行われるようになったそうです。放射線を「見る」ことができる実験です。今回も先生方が霧箱を見せてくださいましたが、確かに見えないものを議論するより、見せることで関心を高めるのは中学高校の授業では重要だと思います。このような実験をとおして、理系の人が増えてくれればいい、という個人的希望を持ちました。
これまで放射性同位元素というと、学生のあいだでも単に怖いので触りたくないとか、あるいはあまり興味がないという意見が多かったように思います。ですから放射線に関する講義とかも、興味がないけど認定されるために聴講する、という程度のひとが多かったのではないでしょうか?
しかし、昨年3月の震災によって生じた原発事故と放射能漏れの問題があり、震災以降は放射線のことを実生活に結びつけて真剣に考える人や、放射線に興味を持つ人が増えてきたように思います。と同時に、放射線に対して過剰反応を起こす人も出ているため(周囲の学生にはいないようですが)、やっぱり正しい知識と感覚をもつことが大切だという王道の結論になります。実際の講義では放射線生物学を専門とする先生が、現在の放射線量が我々の生活に与える影響はどれくらいなのか、ということも交えてわかりやすく解説してくれました。
個人的な希望ですが、もっと小中高校とかで基礎的な理科教育がなされていれば良かったのに、と思います。理系万歳とは言いません。私も学校では文系科目のほうが好きでしたし理科はあまり得意ではありませんでした。この震災・事故をきっかけとして、放射線教育、理工系の教育を見直していこうという動きが出て欲しいなと思います。
事故があったからというわけではないでしょうが、前述の講師いわく、今後は学校でも「霧箱」という、簡単な放射線に関する実験が行われるようになったそうです。放射線を「見る」ことができる実験です。今回も先生方が霧箱を見せてくださいましたが、確かに見えないものを議論するより、見せることで関心を高めるのは中学高校の授業では重要だと思います。このような実験をとおして、理系の人が増えてくれればいい、という個人的希望を持ちました。
2012年2月1日水曜日
放射性同位元素を用いた学生実習
私は今年度、放射性同位元素を用いた学生実習の指導を担当しています。
放射性同位元素というと、使ったことのない人にとっては実にものものしい、危険な物という雰囲気が漂いませんか。
放射性同位元素、またはラジオアイソトープ、アイソトープ、略してRIは確かに危険な物質です。しかし、正しくルールを守って使えば、非常に有効な生物実験の材料として使うことができます。
例えば、DNA(デオキシリボ核酸)を構成する塩基の中に放射能をもつリン原子を取り込ませて、DNAを「放射性標識」する。このDNAが発する放射線が目印となり、このDNAがその後どこに移動していくのかを追跡するトレーサー実験が有名です。
私がこのRIを用いたトレーサー実験のことを知ったのは大学2年の時でした。
放射能とか放射線とか、そんな恐ろしいものは自分に縁がないだろう、とたかをくくってました。まさか大学院でRIをたくさん使って実験することになるとは、この時は夢にも思いませんでした。
大学院時代は、DNAの検出(サザンブロット解析)、RNAの検出(ノーザンブロット解析)、RNAの標識とタンパク質のリン酸化の検出と、あの手この手でRIを使いました。
続きはまたあとで
放射性同位元素というと、使ったことのない人にとっては実にものものしい、危険な物という雰囲気が漂いませんか。
放射性同位元素、またはラジオアイソトープ、アイソトープ、略してRIは確かに危険な物質です。しかし、正しくルールを守って使えば、非常に有効な生物実験の材料として使うことができます。
例えば、DNA(デオキシリボ核酸)を構成する塩基の中に放射能をもつリン原子を取り込ませて、DNAを「放射性標識」する。このDNAが発する放射線が目印となり、このDNAがその後どこに移動していくのかを追跡するトレーサー実験が有名です。
私がこのRIを用いたトレーサー実験のことを知ったのは大学2年の時でした。
放射能とか放射線とか、そんな恐ろしいものは自分に縁がないだろう、とたかをくくってました。まさか大学院でRIをたくさん使って実験することになるとは、この時は夢にも思いませんでした。
大学院時代は、DNAの検出(サザンブロット解析)、RNAの検出(ノーザンブロット解析)、RNAの標識とタンパク質のリン酸化の検出と、あの手この手でRIを使いました。
続きはまたあとで
染色体ワークショップ2
というわけで染色体ワークショップが終わって数日経ったところで、どんな会だったのか個人的イメージを思い出してみることにします。
私はあまり気がつかなかったのですが、微小管についての話とか微小管が大きく絡む話が多かった、という意見を複数聞きました。私にとって微小管は違和感ないですが、あまり微小管と関連のない染色体分野の方がそう思っていたかもしれません。
昨年、理研の平野達也先生が、今回のワークショップのオーガナイザーとなられるにあたり、染色体ワークショップにも新しい試みがあると良いのでは、というお話をされていたのが印象的でした。微小管も何かそういう新しい傾向の一つとして定着すると良いのではないでしょうか。
私は最近は細胞周期と微小管の研究に特に重点を置いて進めて行こうと思っているので、直接染色体ではありません。染色体ワークショップのように、微小管、中心体と細胞分裂の会合もあれば良いなぁ、と感じます。無いなら自分でやれよ、ということになりますが、いつか自分が独立してラボを持つような日が来たらチャレンジしてみたいです。
私はあまり気がつかなかったのですが、微小管についての話とか微小管が大きく絡む話が多かった、という意見を複数聞きました。私にとって微小管は違和感ないですが、あまり微小管と関連のない染色体分野の方がそう思っていたかもしれません。
昨年、理研の平野達也先生が、今回のワークショップのオーガナイザーとなられるにあたり、染色体ワークショップにも新しい試みがあると良いのでは、というお話をされていたのが印象的でした。微小管も何かそういう新しい傾向の一つとして定着すると良いのではないでしょうか。
私は最近は細胞周期と微小管の研究に特に重点を置いて進めて行こうと思っているので、直接染色体ではありません。染色体ワークショップのように、微小管、中心体と細胞分裂の会合もあれば良いなぁ、と感じます。無いなら自分でやれよ、ということになりますが、いつか自分が独立してラボを持つような日が来たらチャレンジしてみたいです。
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