これまではスピンドル微小管の形成起点のことを中心体と呼んできましたが、前述の通り、酵母では正確にはSPB (Spindle pole bodyの略:スピンドル極体)といいます。高等生物の中心体と酵母のSPBは見た目の構造が違うだけで機能は同じと考えてください。話がなじんできたところで、これからはSPBと言う言葉を併記していきます。
前回までに、複製された2個の中心体(SPB)が隣り合ったまま核膜に存在していて、それらからスピンドル微小管が生えてきたところまで見てきました。スピンドル微小管が安定化されるためにはTACC-TOGやEB1といった微小管結合タンパク質が重要だということでした。
しかし、スピンドル微小管が染色体を分配するためには、中心体(SPB)が染色体の両側に位置することが望まれます。これは既に見てきた染色体分配の図に描かれていた通りです。
さて、どうやって2個のSPBが染色体の両側に位置するのでしょうか。ここで、キネシン-5というモータータンパク質が重要な働きをします。
キネシンは非常に多くの種類が存在しています。およそ5年前に、その機能や分子構造の違いからキネシンの大家族(superfamily)を包括的に系統分類し、名前を番号付けしていきました。それまではEg5, BimC, Cut7, ...これらのキネシンは生き物は違えど機能は類似しているのですが、それぞれの生き物の固有の呼び方で呼ばれていたために混乱を招いていました。
そこで、これらの「相同因子」を、まとめてキネシン-5という肩書きをつけることになりました。現在のところ、キネシン-1からキネシン-14まで14グループに分類してあります。
このキネシン-5は2量体などの多量体を形成し、微小管に結合してその上をプラス端に向かって移動していきます。分裂酵母ではCut7タンパク質で、分かりやすくするために、下の図のように、2量体を形成するとして考えてみましょう。あるCut7の2量体は、1分子ずつが、それぞれ別のSPBから生えた微小管に結合したとします。
ここで、微小管の極性が、SPB(中心体)にあるほうがマイナス端で、反対側がプラス端だったことを思い出しましょう。2量体を形成したままCut7のそれぞれが微小管の上をプラス端に向かって歩き出すと、結果として2本の微小管が逆平行(anti-parallel)に束ねられていくのが分かっていただけるでしょうか? そうすることによって、核膜上のSPBは少しずつ互いに離れていくことになります。最終的には、2個のSPBは、まるい核膜上の正反対側に位置するようになり、逆平行に束ねられたスピンドル微小管は核の直径の長さになります。分裂酵母ではそれが約2µmになります。このスピンドルのうえに、染色体が存在します。
これでやっと、染色体の両側にSPBがある「双極」のスピンドル(bipolar spindle)ができるわけです。では、次は、微小管はどうやって染色体をとらえて引っ張ることができるのか、を見ましょうか。
文献:
分裂酵母Cut7:
Hagan and Yanagida. Nature 1990
Hagan and Yanagida. Nature 1992
古いですが、学生の時読んでとても印象に残った論文2報です。
Eg5(ショウジョウバエのキネシン-5):
Mitchison. Phil Trans R. Soc. 2005
ちょっと難しく、内容も上記のものとはちがうトピックスについての総説ですが。